これって何が論点?! 第18回 アベノミクスってなんだっけ?

星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。

「アベノミクス」とは、安倍政権が行っている経済政策の総称です。「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「新たな成長戦略」の三本の矢を基本方針として、長期デフレを脱却し、輸出の足かせになっているとされる円高を是正し、名目GDP(国内総生産)成長率三%、実質成長率二%を目指すとして始められました。実際にこれらの政策によって株価は上昇、円安も進み、目標に向かって、順調に進んでいるようにも見えます。

Q 具体的には何をしたんですか?

まず「大胆な金融政策」ですが、金融緩和を行い、日銀は市場に出回るお金を増加させました。インフレ(景気が上昇すると物価も上がる)への期待を高めようとする政策で、年間の消費者物価を二%安定上昇させるのが目標です。通貨の量が増えるので「リフレーション」(通貨再膨張)を略して「リフレ政策」とも呼ばれます。リフレートとは、しぼんでしまった(デフレートした)風船を再びもう一度膨らますこと。出回るお金の量を二年間で二倍にすれば、物価も二%上がると踏んだようです。
ところが、膨らませば何でもいいというわけではありません。これまでは、日銀は〝短期国債〟を中心に買い入れることで、市場にお金を放出していましたが、アベノミクスでは〝長期国債〟やFTF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)の買い入れ額を増やすというのです。つまり日銀は今後、資産運用のリスクをより大きく抱えることになります。前・白川方明日銀総裁の時代には、政府の金融政策にさまざまな条件を課していましたが、現・黒田東彦日銀総裁はそれらの規制を大幅緩和してしまいました。

Qそれによって何が起こるの?
お金の供給量を増やす目的は、それを消費や投資に回してほしいからです。しかし、お金があれば人は必ず何かを買うとは限らず、インフレ期待、長期金利低下で企業の設備投資が増えるかというと、必ずしもそうとは限りません。
むしろ、日銀が長期国債を買い込むため、国債が市場で品薄になり、出回ったお金は株式等の相場に向かいやすくなります。投資や消費のためのはずが、ダブついたお金が投機マネーとなってバブルを引き起こしつつある、というのが現在の「株価上昇」の真相ともいわれています。投機マネーは売り抜くためのもの。いずれ、膨らんだバブルははじける危険を帯びています。
資金調達が容易にできるからといって、企業が社員の賃金を上げるかというと、本当に消費が増えるという見込みなくしては難しいのです。円安による輸入時のコスト高を心配して、コストを抑える方向に進むことも考えられます。そうなれば、社員の賃金は上がらず、製品価格も上げられず、その結果ますますデフレは続き、お金は余っているので投機マネーに向かう……。「資産インフレ・実物デフレ」これが今、最も恐れられていることです。
恐ろしいのは、日銀券の価値が下がり、円の信用を失うこと。株価は確かに上がっています。しかし実体経済が上がっているわけではない。供給増による株高であるだけなら、いずれバブルははじける。そのとき、日本経済は……。

Qでは、機動的な財政政策と成長戦略の効果は?
これも問題ありなのです。安倍政権の「機動的な財政政策」は、戦後の高度成長期と同じ、コンクリート型財政政策です。民主党政権が「コンクリートから人へ」の政策転換を行ったのを元に戻して、人からコンクリートへ、福祉から防衛へ、地方から中央へ、配分し直すことが予算編成から見られます。戦後の焼け野原ならまだしも、これだけ高度に成熟した日本で再びコンクリートへの投資を行うのはいかがでしょう。投資が増えれば、借金も増えますので、それは将来の負担につながります。国の借金と総生産量の比率を示す、二〇一四年十月の「IMF世界経済見通し」による政府総債務残高(対GDP比)は日本は245%。これは米国105%、ギリシャ174%と比べても、群を抜いています。
むしろ今の成熟した日本経済にあっては、「成長」ではなく、適正な配分こそが求められるのではないでしょうか。企業減税、庶民増税はますます貧富の差を拡大させるばかりです。GDPが上がったとしても、貧困率が上昇するのでは、日本の実体経済は冷え込むばかりです。二〇〇五年の「OECDワーキングレポート22」では日本の貧困率は、OECD平均値10.4%よりかなり悪い15.3%。このままいけば、アベノミクス経済成長の下で富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる現状が進行するでしょう。
「成長戦略」の内容を正しく精査することが本当に重要です。目先の派手さに踊らされた結末がどうなるかをしっかりと見据えて、市民が安心して暮らせる経済政策、そして、次の世代に負担を背負わせない政策が必要なのです。

推薦図書
浜矩子著『アベノミクスの真相』(中経出版、2013年)
植草一秀『アベノリスク 日本を融解させる7つの大罪』(講談社、2013年)

この金融緩和の方法は「黒田バズーガ砲」とも言われています。
お金の量を二年間で二倍にすれば、物価も二%上昇する、と踏んだようですが、その内容が問題です。

推薦図書
浜矩子著『「アベノミクス」の真相』(中経出版、2013年)植草一秀著『アベノリスク 日本を融解させる7つの大罪』(講談社、2013年)