わが家の小さな食卓から
愛し合う二人のための結婚講座
第15回 実家のことを語り合う

大嶋裕香
 1973年東京生まれ。宣教団体でキリスト教雑誌の編集、校正を手がける。99年にキリスト者学生会(KGK)主事の夫と結婚後、浦和、神戸、金沢と転々としながら年間100~200名近い学生、卒業生を自宅に迎える。KGKを中心に、夫と共に結婚セミナーで奉仕。その傍ら、自宅でパン教室、料理教室を開き、子どもたちにパン作りを教えている。13歳の娘と10歳の息子の母親。

わが家の食卓でしている結婚前後の学びでは、お互いの実家について語り合うことも大切にしています。第二回で取り上げた、「家族のあたたかい思い出、悲しい思い出は何ですか?」「家族が大切にしてきたことは何ですか?」という質問のほかにも、家族や親戚の文化を紹介し合います。
結婚前の家族の顔合わせや結婚式の準備においても、実家とのかかわりで問題が噴出することがあります。結婚後は、より具体的な問題が出てくることでしょう。お互いの生まれ育った家庭の文化は全く違います。家族について分かりやすいことばで伴侶に通訳する必要があるのです。
結婚前の学びでわが家にいらしたあるカップルは、結婚式の引き出物や招待客の件で新郎側の実家と二人の意見が食い違い、頭を悩ませていました。新婦の気持ちを守りながら、新郎が実家とも丁寧に話し合うようにアドバイスしたところ、うまく話がまとまったようです。
「これからも、お互いの実家との間でいろいろな意見の食い違いがあるかもしれない。でも、彼が私の気持ちをよく聞いてくれて、じっくり話を進めてくれたことがとてもうれしかったです。尊敬と信頼が増しました」と新婦も笑顔に。よき通訳者となった新郎もほっとした様子でした。

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私たち夫婦の実家の文化も驚くほど違います。夫の実家は絆が強く、家族の誕生日などのイベントは大いにみんなで盛り上げます。一方、私の実家は個人主義で、自由に過ごすタイプ。家族の会話の仕方も正反対。夫の実家では一つのテーマについてじっくり話し合い、会話を深めていくスタイルですが、私の実家は会話がポンポン飛び交うスタイルです。夫も最初は相当とまどったと言います。
私の父に話しかけられ、その話をじっと聞いていると、母や妹からも同時に話しかけられる。そして目の前では私と弟が別のテーマで話している……。一体だれの話を聞けばいいのか、かなり頭を悩ませたそうです。「うちの会話のスタイルは、いろんなところで会話が交錯するんだけど、成り立っているのよね。そんなに悩まなくても大丈夫」と私が通訳したところ、やっと安心したようです。じっくり話を聞こうとする夫は人気が高く、家族みんなが話しかけるので、ますます混乱しているかもしれませんが……。

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さて、お互いの実家の違いで一番驚いたのは、お正月の過ごし方かもしれません。私の埼玉の実家では、お正月はわりとのんびり過ごしていました。しかし、夫の京都の実家では年末に自宅で餅つきをし、おせち料理を何段も作り、親戚を何組も迎えてにぎやかに過ごします。まさに「THE日本のお正月」。特筆すべきは、元旦の「大嶋家朝の会」です。元旦礼拝に出かける前に奥座敷に家族全員が集います。お雑煮とおせち料理を食べた後、一人ずつ昨年の反省と今年の抱負を発表するのです。
新婚当初、この「朝の会」にはとても緊張したものでした。夫の父は家族全員の去年の反省と今年の抱負をすべて書き留めていますし、母も早朝から着物で臨みます。当時は夫の姉妹も実家にいたのですが、皆話がとても上手なのです。それもそのはず、夫の両親と姉は教師、妹は保育士、そして夫は伝道者……。皆が立て板に水のごとく反省と抱負を発表する様子は目にもまぶしく、私は一人しどろもどろ。しかし、今ではこの「朝の会」なくしては、一年が始まらないと思えるほど、私にとっても大事な家族の行事となっているのです。
また関東出身の私には、夫の実家のお雑煮はとても新鮮でした。鶏肉、家でついた丸餅、夫の父が丹精こめて作った人参、大根が具で、白味噌仕立てのお雑煮のまろやかでおいしいこと! 関東では作らなかったたたきごぼうや、にしんを入れた年越しそばなど、結婚してから出合った夫の実家の味は、わが家の定番になりました。

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初めはそれぞれの実家の違いばかりが目につき、戸惑うばかりかもしれません。しかし、お互いの実家のよい文化を持ち寄り合って、新しい家族を作っていける恵みがあるのです。違いを裁くのではなく、違いを理解し、受け入れていくとき、違いが豊かさになっていく。お互いの実家のことばを丁寧に通訳しながら、「父母を離れ、妻と結び合い、ふたりは一体となる」(創世記2・24)、そして新しい家族を作っていくという歩みをしていきたいものです。