ブック・レビュー 『ひたすら人間らしさを求めて』
一牧師の体験による人生論

『ひたすら人間らしさを求めて』一牧師の体験による人生論
橋本 昭夫
神戸ルーテル神学校校長

人間とは何か 美しさと尊さを探求する懇切な案内書

 「人間らしく生きるということの美しさと尊さを―そのほんの一端であろうが―、しみじみと覚えさせられているこのごろである」(五七頁)という著者の述懐が本書の内容を要約している。人間とは何か。著者は生き・生かされているということを信仰者としてひたすら尋ね続け、その不思議と豊かさを若き日の夢と挫折、迷いと葛藤を経、ついに人間は神に創造された「高価で尊い存在」(九三頁)という確信に見い出している。評者は、神学校で弁証学を学生と学んでいる。そんな中で神の存在の弁証の最たるものは人間そのものである、神の似像に創造された人間は秘義である、と語ってきたが、本書の著者が問い、考え、学び、そして発見されたことと響きあうのを知り深く感謝した。

 若き日にキリストに救いを見い出し、教師になることから牧師の道へと進まれた著者が七十歳になられ、ご自分の「生きざまの一端をあかしすることによって、心からの感謝」(一七三頁)を伝えたいとの思いからなる本書は、たんに証しの書であるだけではない。人間とは何かということの探求の懇切な案内書となっている。神学はもとより、心理学、哲学、生命科学などの分野にも論がおよび、学びのテキストともなる。一貫して専門家でないことのことわりがあるが、それは逆に学ぶことの必要性と学ぶことの深い意味を教えている。著者の学ぶ者としての人柄が表れている。 

 本書では「生きる意味を探し求めて」、「一般的知識との葛藤の中で」、そして第三に「クリスチャンとして生きる」ことの祝福がいかにゆたかであるかが展開されている。「宗教」の意味を考え、試練や苦悩の経験の中でのほんとうの救い、そして老いと死を見すえての「人間らしさ」の道すじが著者のなまの経験(胃の切除!)のプリズムを通して語られている。広く深く温かく「人間らしさ」を求めての軌跡である本書を評者の長男にも読ませたい。