ブック・レビュー 『ストーリー オブ マリア』

『ストーリー オブ マリア』
日高恵
日本福音キリスト教会連合・立川駅前キリスト教会会員

静かなる情熱を持つ女性

 私は以前から、聖書に出てくるイエスの母マリアの記述、「しかしマリヤは、これらのことをすべて心に納めて、思いを巡らしていた」(ルカ2・19)、「母はこれらのことをみな、心に留めておいた」(ルカ2・51)に魅かれていた。

 本書は、著者が聖書のみならず、注解書や歴史家、神学者による膨大な資料によって、調べうる限りの事実を根拠とし、映画「マリア」の脚本を参考に、なおかつ自由なイマジネーションを駆使して、イエスの降誕までの物語を小説として完成させたものである。聖書の史実を軸に、当時のユダヤ人社会の庶民の生活が生き生きと浮かび上がってくる。とくにローマ政府に支配されている現実、貧しい生活でも容赦なく取り立てられる税金、その中で主を尊ぶ信仰を継承している家族の姿。日々の労働、草、木、石、砂、当時の田舎の村の匂いが立ちのぼる。また、未婚のマリアが聖霊によって身ごもったことでの戸惑い、不安、*藤や恐れ。それを聞かされたヨセフの失望と悲しみ。しかし、このカップルは試練の嵐に飲まれることなく、御使いのことばを固く信じ、ただ、主のなされる現実を受け止めて、誠実に日々を生きていったことが描かれる。

 本書は、この一組のカップルを通して、聖書が示す「麗しい結婚」をも描いているように思う。また、マリアが少女から妻になり母になる姿を通して、ひとりの信仰者としての模範をも感じさせてくれる。そして、貧しさの極みとも言うべきところに、神は救い主を送ってくださり、たくさんの奇蹟と導きをなさって降誕の預言が成就したことに感動を新たにすることができる。

 前述の聖句にあるように、マリアは、たとい自分の頭で理解できなくても、主の主権を常にあがめ、尊び、信じ、ただ事実を心に受け止めることのできる強さ=静かなる情熱をたたえた信仰の持ち主であった。私は、このマリアの品性に思いを馳せながら、二〇〇七年のクリスマスを祝おうと思う。