ブック・レビュー 『三浦綾子100の遺言』

『三浦綾子100の遺言』
中山 弘正
明治学院大学名誉教授/元明治学院学院長

本に込められた三浦綾子の祈り

 本書は、三浦綾子と直接的親交があった牧師が、三浦の多数の著書を読み込んだ上で、それらの中から一句を「遺言」としてとり出し、それぞれに見合う聖句と自己のメッセージを述べたものである。

 当然、三浦の「遺言」はじつに様々な領域に及んでいるが、特にいくつかのことに集中していると思われる。

 第一は、人間の原罪の問題である。例えば、22番「われわれ人間はすべて、弱さと過ちからつくられている」(『帰りこぬ風』/聖句詩篇五十一篇十七節)。

 著者は『氷点』の中心的メッセージを「原罪」とする。「的はずれの生き方です」と述べる。当然、それは「罪を赦す神」の問題とつながっていく。38番「この非情な自分を赦し、だまって受け入れてくれる方がいる」(『続氷点』/聖句Ⅰヨハネの手紙一章七節)。「この燃える流氷の光景を通し陽子は、人間の罪を一切赦すイエス・キリストの十字架の血による完全な赦しに、初めて目が開かれていきます」(本文より)。

 第二は、戦争と平和の問題である。戦時中、熱心な軍国主義教師であった三浦は、今、戦争を拒否し、平和を願う強い決意を語り続ける。

 17番〈戦争の悲惨さ〉、24番〈無駄な戦争〉、31番〈平和への切実な願い〉では、「小説を書くことよりも、もっと切実に、四、六時中思っていること、それは平和の問題である」と語る。34番〈すべてを破壊する戦争〉、49番〈狂い始めた社会に歯止めを〉、60番〈戦争の悲惨さを語り継ぐ〉、77番〈戦争にかり立てるもの〉、78番〈平和を求める切なる願い〉、85番〈戦争の終結を祈る〉、99番〈平和を求める心〉等々。

 著者の込堂師は、心の問題、自殺願望等々、正直に自らのことも告白しつつ本書を書かれた。著者自身の願望・告白が、三浦綾子の「遺言」と共鳴しつつ、本書を多くの老若男女への主イエスのメッセージとしている。