ブック・レビュー 『人にはどれだけの土地がいるか』

『人にはどれだけの土地がいるのか』
上山 要
日本バブテスト・バイブル・フェローシップ幕張聖書バプテスト教会 牧師

土地の広さと心の広さの対比がユニークに描かれて

 人にはどれだけの土地がいるか──トルストイの原作をたとえ知らなかったとしても、この問いかけは現代に生きる私たちの心に深く響いてきます。

 働き者の農夫であったパホームが悪魔の誘惑を受けて、借り物の土地を自分のものに、それを二倍、三倍、十倍と次々に広げていきます。より広い土地を求めようとするパホームの姿は、私たちが持つあらゆる欲望の象徴でもあります。土地と私たちの心とが対比されていてユニークです。「土地さえあれば、なんだってこわくない。悪魔だってこわくないさ。」「パホームは広い土地を持つようになりました。でも彼の心は前よりもずっとせまくなってしまいました。」これらのことばが特に印象的です。

 最後に聖書のことば(1テモテ6・17)で閉じられていますが、聖書の世界と土地の関係は、まさに人間に対する神の導きと祝福の縮図です。土地は、神が与えてくださったもの、継承するものであり、神が中心におられれば、そこは恵みの場所であることが理解できます。

 聖書を通して、私たちは主にあって多くを望み、期待して良いことを知ることができます。同時に、目先の広さを求める者には、神が与えてくださるもので満足すること、さらにその領域内を自らが開拓すべきであることを教えてくれます。何を目標にして歩むのか、また何を価値観の土台とするかによって、人生は決定します。パホームの最期に、私たちはその真実を見るのです。

 現地取材を通して描かれたロシアの風景は、文字だけでは実感できなかった大地の広がりをいきいきとリアルに描いています。また、原作で頻繁に用いられていた尺度や貨幣の単位を、あえて使わなかった点も、親しみを増しています。

 おとなの集会でこの絵本の読み聞かせをしたところ、実にさまざまな意見や感想が飛び交い、盛り上がりました。あなたはこの「土地」に、何を入れ替えて読みますか。すべての人に生きる意味を問いかける絵本です。