ブック・レビュー 『平和つくりの道』

『平和つくりの道』
東條 隆進
早稲田大学教授

「平和」について考えることが、日本の教会の重要課題

 著者はアメリカのメノナイト系の兄弟団(Brethren in Christ)の会員であり、イースタン・バプティスト神学校教授である。『飢えの時代と富めるキリスト者』(聖文舎、一九八九年)の著者として日本にも知られている。

 著者は福音は平和と正義で表現されるべきであるという立場を一貫して貫いている、ラディカル福音主義の立場に立つ神学者である。

 近年、日本でも知られてきているメノナイト派の神学者ジョン・ハワード・ヨーダーは、神学と政治の関係を深く掘り下げている。これに対してロナルド・J・サイダーは、福音と経済社会と正義のあり方についてアメリカ福音派のなかで最も良心的な立場に立って発言している。

 本書において著者は、経済社会と「平和」の問題にまで視野を広げて福音主義を貫きながら考察している。

 とくに第五章「平和をつくることと経済」は、著者の独自性を表している。著者はアメリカの自由主義、民主主義、利己的市場競争主義そのものを批判し、アメリカの生き方を世界に広げるという、アメリカ発グローバリズムが世界の平和を破壊する原因になっていることに鋭く反省を求めている。

 今日、ヨーロッパの福音主義の方向ははっきりしている。それは、平和主義の立場である。

 しかし、アメリカの福音主義は困難な状況に立っている。とくにセプテンバー・イレブン事件(米国同時多発テロ)以降、アフガニスタン侵攻、イラク戦争を始めたブッシュ大統領を支えてきたアメリカの福音主義は、重大な危機にさらされている。

 日本の福音主義は戦後、圧倒的にアメリカ・ファンダメンタリズムの影響下で生きてきた。しかし、今、「平和」という、福音の最も大切なテーマについて、著者と共に考え、実践していくことが何より重要な日本の教会の課題であると信じるものである。