ブック・レビュー 『生命が輝き出すとき』

『生命が輝き出すとき』
松藤 一作
日本バプテスト連盟 福岡西部バプテスト教会牧師

出会いの中で紡ぎ出された「ことば

 〈生き様〉とは、必ずしも「いつどこで何をしたか」ということに留まらない。人生の中で出会わされた出来事や人々との関わりの中から、自分の中にどのような「ことば」が生まれ、それがどのような場所で語られていくのかということにつながっていくことなのだと思わされる。本書には、著者松村豪一先生の歩みと共に、様々な場所で語られた講演や説教が掲載されており、それらが両輪として著者の〈生き様〉を示している。

 本書は、戦時中の中国での体験から始まる。幼い松村先生が、戦争の恐ろしさと愚かさ、非人間性の中で自らいのちの危機に脅かされ、そしてナニモノかによって守られているという経験をし、それが医師として、またキリスト者として立っていく原点となっていく。この「いのち」体験とも言える原体験が、その後の患者に対する姿勢や、神の働きへの謙虚さへとつながっていく。

 また本書は、一人の医師の生涯を綴った書物に留まらず、信仰の証しとも言える内容を多く含んでいる。本書でも触れられている私の父の病気についても、いち早く信仰的に受け止めてくださり、私たち家族を支えてくださった。「いのち」を与え給う神への畏敬を忘れることなく、医師としての働きに従事された姿は、まさに「患者の生命は自分の手の中にはなく、神さまの御手の中にある」との信仰に基づくものである。「生命」と「いのち」との違いを厳密に位置づけつつ、「生命」に携わる医学の限界性と、その一方で神の与え給う「いのち」の豊かさとの両面を観ていく全人的医療に関わる働きに携わられ、さらには牧師としての道をも開かれていく。

 人は出会いを通じて変えられ、その中から生きた「ことば」を与えられ、そのことばがさらに広がりをみせて〈生き様〉となっていく。既述の通り、本書は松村先生を取り巻く出会いや出来事、そしてそこから発せられていった数々のことばが、その〈生き様〉を両面から示してくれる。本書を通じて、さらにその〈生き様〉が広がっていくことを願う。