ブック・レビュー 『異教世界のキリスト教』

異教世界のキリスト教
勝本 正實
日本聖契キリスト教団 初石聖書教会 牧師

福音を伝えることの難しさを味わっている人に、確信と励ましを与える

 本書は、私たちが暮らすこの日本、異教社会の中でキリスト者として生きていくうえでの悩みや、福音を伝えることの難しさを味わっている人に、確信と励ましを与える書である。

 私たちの国は、多宗教の国であり、異教の国である。それを福音宣教へのマイナス(障害)として受けとめるのではなく、プラス(機会)に変えることが十分可能なこととして語りかける。

 本書は著者が「異教と日本宣教の課題」の末尾の部分で語っているように、日本という生活の場での神学を「異教」という視点からとらえる。異教の地であるからこそ、キリスト教を宣教と弁証の観点から展開していくことの大切さを語る。この論証のためにまず、・聖書の中での異教と宣教の実際、・異教とは何かを定義する、・異教の意義と、・ヨーロッパでの実例、・日本における異教としての諸宗教と、・「神」という言葉の検討、・最後に異教の中での日本宣教についての話をまとめとして語る。

 著者は、日本の伝統的習慣に安易に迎合する道(シンクレティズム)を選択しない。しかし日本の文化や伝統をすべて捨て去ること(欧米中心主義)をも良しとしない。むしろ日本の文化や伝統を、聖書の視点から評価し位置づけようとしている。そのうえで日本において、人々が教会に足を踏み入れない(近づきにくい)理由を三つあげている。では「異教」のただ中でどのように福音を語り、生活するのかについては、事例をいくつかあげるにとどめて、多くを記さない。それはこれからの教会の課題、教会の実践に期待しているように思えるし、現時点での限界でもある。この先は、教会の現場で、信仰生活の現場で試みながら、試行錯誤していくことになる。

 本書を通じて、私は異教の中から救われた人が、再び異教の世の中に戻っていく、回帰していくことについても合わせて考える必要を覚える。棄教、離教の問題は単に個人の信仰のあり方ではなく、日本の教会がかかえる異教問題のもう一つの姿である(ガラテヤ四・八~九)。