ブック・レビュー 『 教会アーカイブズ入門 』

『 教会アーカイブズ入門 』
安藤 肇
日本基督教団 隠退教師

現在の教会の記録を後世へ

 「釈迦が生きた二千五百年前インドには文字がなかった。彼の言葉を聞き逃せば、失われた教えは二度と取り戻せなかった。人々は全身全霊をもって教えを聞いた。リンカーン大統領に「失われた原稿」という伝説があるという。彼は原稿なしに演説し、聴衆は最初それを筆記していたが、途中から皆感動のあまり、筆記するのを忘れて演説に聞きいってしまった。演説の前半は記録されたが、後半は「感動」のみが残ったという。現代ならばテープレコーダーがあれば解決することである。しかし現代は、IT技術の飛躍的発展によって情報があふれ、それをどう整理してよいか迷ってしまう。本書は教会史アーカイブズ(資料保存)学について、五人の専門家の方々が、豊富な実際的経験と実例を提示しながら誠に「痒いところに手の届く」専門性と資料への深い愛をもって書かれた、この分野の先駆的・開拓的な好書である。本書によって私たちは、過去の資料の保存・現在の我々の記録の後世への継承の仕方について学ぶことができる。また、自分の教会の「教会史」を制作しようとする人は、まず本書を読むべきである。長崎・横浜に宣教師が来てから百五十年、この間何百人の人が洗礼を受けたことであろう。その中には日本キリスト教史に名前をとどめた偉大な信仰者だけでなく、無名で静かに信仰と祈りの生涯を送った人たち、途中で信仰から離れた人たち、多くの人たちへの神の恵みから歴史は成り立っている。戦災を免れたローカルな教会には、古い時代の「熱い信仰」の資料が多く埋もれていることであろう。それらの人たちの信仰をいかに現代に生き返らせて光をあてるか、それは「治安維持法の二十年」戦時中の苦難の歴史を経験した者の使命でもある。歴史に対する情熱だけでなく、教会史アーカイブズの知識を身につけることも大切なことである。現職の牧師・役員の方々に是非読んでいただきたい書物である。