ブック・レビュー クリスマスの現実


日高恵
俳優・ボイストレーナー JECA 立川駅前キリスト教会会員

「おっ、絶対読もう」
本書の新刊案内を目にしてまず思った。
以前から私の愛読書であった『とっておきのクリスマス』『続・とっておきのクリスマス』の再販と併せて、第三弾の新作として発刊されたという。先の二冊がとても好きで、その中のいくつかは、許可をいただき朗読劇として上演させていただいたこともあった。コンセプトはこれまでと同じく、米国の月刊誌「ガイドポスト」からハートフルな話をピックアップして編集した本である。すべて〝実話〟というところがなによりのミソ。十のエピソードが掲載されているが、私が特に気に入った二つを紹介したい。
まずは、六話目の「おかえり、ビッグ・ジョン」。ビッグ・ジョンと名付けられた小さなピエロの人形は、六歳の白血病の男の子、ジェイソンを励ましつづけ、子どもを先に逝かせなければならない母親の信仰を支えたという物語。
そして、九話目の「エメルおじさんが愛した宝物」。親戚一同の中でも厄介者扱いされていたエメルおじさんが、宝物として大事にしていたものは、主人公がおざなりに選んだ安物のネクタイピンだった。それがわかったのは、エメルおじさんの遺品の整理をしていたときのこと。主人公の心のとげとおじさんの歪んだ愛が切なく、教科書からは学べない気持ちを教えてくれる。
しかし、どうしても好きになれない話もあった。八話目の「クリスマスのすてきな企て」は、貧しい人にクリスチャンがギフトを贈る話なのだが、なんだか上から目線で、キリストが「与える者は幸い」と言ったこととはちょっと違う感じがしたのは、原語で読んでいないからなのか。しかし、これもリアルと言えばリアルな人間の姿であろう。
実話を通して語られるこれらのエピソードは、クリスマスは決してファンタジーではなく、実体験の中に神の介入があることを知らせてくれるという点で、とても興味深く、心を耕す。装丁も愛らしく、コンパクトな大きさで、忙しい生活の中でもアドベントを味わうのに役に立つ一冊と言えよう。