ブック・レビュー 冷え切った愛情、絶望感の中に生まれた真の誓い

 『君への誓い』
大嶋重徳
キリスト者学生会(KGK)主事

「だから、結婚は……してない」
激しい交通事故に遭い、生命の危機をくぐり抜けた妻は、自分との一年半前の出会いから、結婚生活までの記憶をすべて失っていた―。これは、〝あの結婚式の誓約”に立とうとし続ける夫の信仰の実話である。
事故などで脳に記憶などの何らかの障害がおこった夫婦は、その多くが破綻してしまうという。事実、ここでも夫は苦しむ。妻は治療の回復途上で、事故以前とは全く違い、笑顔を失い、落ち着きを失い、感情的に夫を激しく罵るようになる。さらに、事故による経済的な不安も生活を取り囲む。何より、「あなたは私に対してずっと誠実だったわよね。……だけど、私があなたと結婚しているっていうことがわからないのよ」(一四四、五頁)と、以前の愛情を失ったまま自分を見つめる妻の眼差しの前に立たないといけない。彼が妻の寝息を聞きながら、こう祈るシーンが胸を打つ。「神様、僕の人生をどうなさるおつもりなんですか。僕の結婚の誓いをどうなさるんですか」(一六一頁)。
困難のときも貧しいときも、妻を守り養うと、神様の前に誓ったあの誓約に立とうとしながら、「ただ、その方法がわからなかった」と途方に暮れるのだ。だが、ここから神様の助けにより、二人の愛は再び始まり、直っていく。
この物語に流れているのは、二人の愛の美しさではない。多くの夫婦が別れを選んでしまう現代の中で、人間的な努力によって取り返せるとは思えない、冷え切った絶望感はこの世界の至る所にある。しかし、この物語が人々の心に関心と奇蹟をもたらすのは、誓約を求める神への信仰を持つときに、「やり直せる」夫婦の愛がこの地上に存在しうるのだ、という希望に満ちているからだろう。
本書を夫婦で結婚記念日に読み、そして、与えられた誓約を二人で思い起こす時間を持ってみてはどうだろうかと思う。あるいは、結婚を考えている世代が、結婚前にこの本を通して結婚の誓約の意味を知ることは、将来の相手に出会う前に、〝守るべき誠実さ”への励ましを受けることとなるだろう。