ブック・レビュー 新版『安らかな死を支える』

『新版 安らかな死を支える』
森山健也
単立・香椎バプテスト教会牧師

キリストの眼差しに学ぶことの大切さ伝える

 わが国のホスピス医療の草分けである著者が、日本で二番目のホスピスを開設されたのが一九八四年。その年に「安らかな死を支える」(旧版)は出版され、七刷を数えた。二十五年が過ぎ、「身体にも大きな影響を与え、信仰にも深い関わりのある心=カルディアの健やかさについて考える」カルディア・ブックスの第二弾として、新装の本書が出版された。この間、日本におけるホスピス施設は百八十と増加し、高齢化社会を迎えつつある。

 旧版と新版を読み合わせた。ホスピス・ケアの方法や患者を取り巻く環境の変化に伴う削除及び加筆修正を経た本書の内容は、旧版とほとんど変わっていない。それは目次を見ても明らかである。そのことはホスピス医師として歩み始められた著者が、十年の経験を踏まえて著された旧版の内容は、それより四半世紀たった今も変わることなく真実であること、換言すれば、この本はホスピスの本質を的確に捉えていることを物語っている。

 本書はホスピスの専門医師である著者が看取った二千五百名の患者とその家族から学んだ多くのことを、医師、看護師等の専門家だけでなく「生と死に関心を持っておられる一般の方々にも何らかの参考になれば」と願って筆を執られたものである。そのためにホスピスに関わる専門的な事柄を記しながら、その中に普通の日本人である私たちに、多くの人が病気になって初めて、自分の人生、自分の死、死後は、という根源的な問いを持つようになると人間の実相を見せ、「人として生きるとは自分の存在の意味を考えながら生きること、そして、死を視野に入れて生きることではないか」と語りかける。

 こうした語りかけに読者は頷き、ほっとし、癒されるであろう。それは私たちも、教会も「現代医療が置き忘れたもの」と同じように、人をパターン化して見、ハウツーで伝道し、数で評価する空しさをどこかで感じているからではないか。そんな私たちに著者は他者への視線の大切さ、キリストの眼差しに学ぶことをやさしく語りかけている。