ブック・レビュー 昔、バランスの悪い子どもだった大人たちへ

 『発達障害とその子「らしさ」』
生沼晴美
社団法人キリスト教保育連盟

発達障害について学びたい人に限らず、今、子どもにどう接すればいいかわからない……、教会に集う子どもたちをどう受け止めたら良いだろうか……、子育てがうまくいかない……、そんな悩みをもち、子どもについて知りたいと願う方々に手にとっていただきたい本です。
著者は「発達障害の子どもを理解できる大人のいないことが、今日の心の発達という問題でもあることを頭に入れながら、読み進めてもらえればと思います」(一五頁)と記しています。本書ではまず、軽度発達障害と言われる障害の特徴を知り、障害が様々に組み合わされ、重複し、移行しながら多様なあらわれ方をし、それが障害をもつ子ども一人ひとりの個性ともなることを学びます。
また著者は、“発達障害の本質は心の発達のバランスの問題である”との立場で、発達バランスの構成要素を図表化し、障害をもつ子どもは、心のどの要素のバランスが悪いのかを分かりやすく説明しています。
「完全にバランスのとれている子どもなどひとりもいないのです」(五四頁)。そして、アンバランスさがその子らしさに見え、おもしろいという立場から、発達障害をもつ子どもも、一人ひとりが個性をもった存在として大切に育てられることの意味を思わされます。
五十年前も同じような発達障害の子どもがいたはずなのに、その頃は問題にならなかったことが、今なぜ大きな課題となるのか。そのことを著者は、子どもたちにやさしい環境、子どもの育ちや心を見つめる大人の側の問題や課題、発達障害のサポート、虐待、コミュニティーが支える子どもたちの発達などの視点から、私たち大人がすべきこと、考えるべきことを示しています。
「自分はそんなにバランスのいい子どもだったか」(一一五頁)ということばが心に残ります。読み進めるうちに、子どものことを考えつつ、自分もこれまで支えられて生きてきたことに感謝し、子どもたちの育ちをよりよく支えるために必要なことをさらに学びたくなる本です。