ブック・レビュー 書き言葉を超える衝撃の書
その背後にある神学

 『おかんとボクの信仰継承』
西岡義行
東京聖書学院教頭・東京ミッション研究所総主事

未公開のものも含め、小林和夫師の著作の中から選ばれた『小林和夫著作集』全十巻がこの二冊をもって完成したことは、実に喜ばしい限りです。
第九巻はそのタイトルが示すとおり「ヘブル人への手紙、ヤコブの手紙、ペテロの手紙、 ヨハネの第一の手紙講解」です。第九巻までは、基本的に説教を通じて語られたもので、みことばへの深い取り組み、神学的学び、牧会経験や聖書学院での伝道者養成の経験、さらには、個人的な人生経験や信仰体験が解き明かしの中で見事に結晶したものです。読む中で、説教者が語りだし、さらに主の迫りを感じる本書は、書きことばとしての「書物」を超えたものといえます。衝撃にも近いこの実感は、読まれた方にはきっとお分かりになることでしょう。
さて、最後の第十巻は、それまでのものとは全く趣が変わり、今までの説教集の背後にある神学的屋台骨となる論文集です。そこでは、まず「聖書論」が扱われます。自由主義神学によって聖書が相対化されていく中で、啓示の可能性の詮索を出発点とするのではなく、神の主権における啓示の現実を出発点とする〝バルト神学〟を重視しつつ、渡辺善太の聖書正典論を批判的に用いて、聖書のテキストを忠実に解釈するとはどのようなことなのかが述べられます。神学的にも方法論的にも議論が深められ、展開されつつも、譲ってはならない保守的視点を明示していることは、重要な貢献です。こうした神学的議論を「見ざる、言わざる、聞かざる」という立場ではなく、果敢に学び、検証し、自らの聖書へのアプローチを深める姿勢は、それに続く者が継承しなくてはならないと強く思わされます。
さて、こうした神学的議論を経て、さらに聖書神学や聖化論を読み進めると、聖書が一貫して伝えている中心的使信と聖化とがどのように深いところで関わっているかに目が開かれます。聖書の全体を深みにおいて捉えつつ、みことばを存在をかけて取り継ぐことがいかなるものかが明かされてまいります。だからこそ、本書がより多くの説教者、信仰者また神学者に読まれることを心から願っております。

『小林和夫著作集』
第九、十巻
ヘブル、ヤコブ、ペテロ、
第一ヨハネ講解/神学論文集

A5判 第9巻4,830円
第10巻3,990円
いのちのことば社