ブック・レビュー 私たちが見失ってきた何かが、介護の現場から感動とともに迫る

 『人は“命”だけでは生きられない   』
西岡 義行
日本ホーリネス教団 下山口キリスト教会牧師

著者との出会いは、文章を通してでした。川崎にある教会の牧師であり、同時に「ホッとスペース中原」の代表として介護の現場から発せられるそのことばに心打たれました。この感動は、「超高齢社会とキリスト者」と題する神学校の信徒コース特別講座で先生と直接語る中で、いっそう深まりました。その講義は、今までの介護や福祉のあり方や認識に大きな衝撃をもたらしたのです。今回、著書を出版されると知り、心待ちにしていただけに、その書評執筆の依頼を受けたときは大変驚き、うれしく思いました。
本書は、全国介護福祉協議会の冊子「ふれあいケア」に掲載したものに加筆し、さらに新たな書き下ろしの原稿を加えたものです。もともとの読者がキリスト教の背景を持っていないことから、前提とされる終末理解に違和感を覚えるクリスチャンの方もいるかもしれません。しかし、それをも超えて迫ってくる魂の叫びに圧倒されます。
取り上げられる一人ひとりは、無情なまでに人に襲いかかる負の連鎖、目を背けたくなるような現実の中にいます。限界を超えて介護する娘さんの病気に伴い、生活そのものが成り立たなくなる高齢者、進行する認知症と家族との確執、「これ以上醜態をさらして生きていたくない」と口にする女性、脳梗塞で左半身麻痺となり、多くの持病といつ終わるともわからない足の先端の痛みに眠れない日々を送る方、介護を頑なに拒絶し、引きこもる男性……。
これらの方々が次第に変えられていくそのただ中から、助ける人・助けられる人という枠組みでは見えてこない大切な何かが浮き彫りにされます。単に超高齢社会における介護はどうあるべきか、クリスチャンとしてこうした社会の現実にどう備えるかという提言ではありません。むしろ、ことばにすることを拒絶するような壮絶な現実、死を前にした「生の葛藤」の中で、本当に見るべきことは何かが明らかにされていくのです。苦悩する要介護者一人ひとりに寄り添い、魂の叫びに耳を傾け、「生」の根本課題に真っ向から取り組んだ中から聞こえてくるメッセージは静かな深い感動を届け、読者の生き方を揺さぶることでしょう。

『人は「命」だけでは
生きられない』
佐々木炎 著

四六判 1,260 円
フォレストブックス