マンガ家・ケリー篠沢さん インタビュー マンガ『ジェネシス』制作秘話!

 『マンガジェネシスⅠ 天地創造』

「二〇一一年、まだ幼かった次男を突然亡くしました」
聖書マンガ『ジェネシス』への思いを尋ねると、ケリーさんはおもむろに口を開いた。亡くなったのは、ちょうどマンガを描いていた最中のこと。自分を責め、「私は、もう二度とマンガを描かない」と決めた。葬儀の夜、悲しみと混乱で眠れずにいると、頭の中で子どもの笑い声と音楽が響いて消えなくなった。「ママ、マンガ描いて。ゴスペルを歌って」と。
ケリーさんは当時を振り返って言う。「息子はまだ話せる年齢ではなかったのですが、私は神様の声だと思っています。『マンガをやめてはいけない。描き続けなさい』と。それを聞いて『ああ、私は描こう』と思いました。息子は、地に落ちた種なんです。これから何十倍、何百倍と実を結んでくれます。私は親として、あの子が結んだ実を絶対に刈り取ろうと思います」

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葬儀後まもなく、韓国での集会に『メサイア』の作者として招待された。愛息を亡くしたケリーさんの証しに、会衆は涙を流して聞き入った。
「参加者の方々が泣きながら私を抱きしめてくれて、もみくちゃになるほどでした。その時、私の足にしがみついて泣いている一人の女性に気がついたんです」。素性を聞くと、キリスト教が弾圧されている国から逃げてきた女性だった。「『メサイア』は、私の国にも届いています。だから、どうかマンガを描き続けてください」と涙ながらに訴える女性のことばに、ケリーさんは心打たれた。「その国に私自身は行くことができないけれど、マンガなら、どんなところにも入っていけるんだ、子どもたちに福音のメッセージを届けてくれるんだ、と感じました」
集会直後のインタビューのひととき。「次回作は何ですか」という質問に、ケリーさんの口から「ジェネシス(創世記)を描きます」ということばが飛び出していた。「自分でも驚きました。まったく予定にはなかったんです。それでもその時、自然に口から出たんですね」

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マンガを描くにあたってまず必要なのは、聖書知識の豊富な人に取材をすること。ケリーさんには心当たりがあった。それが、長年の友人であり、後に『ジェネシス』の構成を担当することになるメイサルークさんだ。
しかし問題は、メイサルークさんがニュージーランド在住ということ。そう簡単に会うことはできなかった。
韓国から帰国し、飛行機を降りた時のこと。何気なく携帯電話の電源を入れると、一件のメールを受信していた。
「なんとそれがメイサルークさんからの『今、日本にいます』という連絡だったんです。神様のお計らいだと思いました」
メイサルークさんと会うと、ケリーさんは『ジェネシス』の構想について打ち明けた。メイサルークさんも乗り気だった。しかし、やはり短時間で取材はできない。ニュージーランドまで行きたかったが、それには様々なハードルを越えなければならなかった。
「まず、家族で行けることです。次男を亡くした直後だったので、できるだけ家族と離れたくありませんでした。次に、家族分の旅費が満たされること。そのほか、全部で五つの条件を挙げて祈りました」。ところが、その後五つの条件は奇跡的にクリアされていく。「これはもう行くしかないと決心しました。息子の死後、心が突き動かされる出来事でした」
しかし、すべてが順調ではなかった。制作費やアシスタント、出版社のあてもなく、「たたいても開かれない扉に、ずっと泣いて苦しんでいました」とケリーさんは振り返る。それでも、環境は少しずつ整えられていった。
「出版社がいのちのことば社に決まったり、『ちょうど仕事があいたから』と気心の知れたアシスタントが協力を申し出てくれたり。思えば、たくさんの人に祈られ、応援していただいたと思います。苦しみに勝る喜びを、神様が与えてくださいました。息子が結んだ実の一つだと思っています。本当に、神様は粋なことをしてくださいます」

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段階的に形づくられていく被造物の雄大さ、神と人との絆、人の堕落―。天地創造から、ノアの洪水前までの物語が、壮大なスケールで臨場感たっぷりに描かれる。迫力は、『メサイア』以上かもしれない。「絵は、キャラクターを取り巻く状況をできるだけリアルに表現できるよう努力しました。ただ色を塗るというより、空気感を大切にしています。一見単純に見えるシーンも、自分の求める色が出るまで二十、三十と塗りを重ねました」空の色一つとっても、実際に空を撮影し、写真を加工して塗り重ねるという徹底ぶり。「描くことは楽しいです。描きながらみことばに立ち止まることができるんです」とケリーさんは話す。
そして、もう一つの大きなこだわりがシナリオだ。
マンガの可能性を信じ、マンガを通しての宣教を目指すケリーさん。「シナリオは、第一に福音的内容であることを大切にしています。ですが、子どもでも理解できるよう、一回読めば分かる文章と絵の表現に努めました」
単に聖書の物語をなぞるのではなく、神学的背景や登場人物の心情にまで深く切り込み、共感性の高い作品に仕上げた。
特に『ジェネシス』では、神の愛と人間の罪に強くスポットが当てられている。自らが造り出した最愛の存在、アダムとイシャ(エバ)との関係が、罪によって粉々に破壊されてしまった神のつらさ、苦しみをリアルに描き出した。
「私は、このシーンを泣きながら描きました。神様の人間に対する思いは、まさしく親そのものだと思うんです。最愛の存在をもぎ取られた痛み。二人を罰するというよりも、神様は本当につらく、悲しかったんだと思います。神との関係の崩壊。それが、罪なんだということを知ってほしい」
罪による断絶。それでも人間との関係を投げ出してしまわない神の、数千年にわたる壮大な愛の歴史が、『ジェネシス』を皮切りに始まる。
ケリーさんは願う。「読者の方には、読んだ後に希望を持ってもらえればと願っています。それは、『私たちの力だけで頑張るんじゃない、いつも神様がそばにいてくださる』、という希望です。それが広がっていくことで、息子の実も、やがて豊かに実ると信じています」