三浦綾子に出会って 『塩狩峠』のモデル長野政雄さん愛読の聖書を発見

守部喜雅
百万人の福音編集長

 昨年の10月1日付けの北海道新聞夕刊に、小説『塩狩峠』にまつわる話題が大きく報道された。『塩狩峠』のモデルの鉄道員・長野政雄さんが殉職した時に携行していた聖書が遺族宅で発見されたというのだ。1909年2月28日、クリスチャンだった長野さんは上川管内和寒町の塩狩峠で急勾配を逆走する列車を脱線転覆の危機から救うため、乗っていた列車から線路に身を投じ29歳で殉職した。発見された聖書は、小型の新約全書で、劣化のはげしいその表紙の右端には赤黒いしみがべっとりと付いていたという。

 小説『塩狩峠』は、長野さんと同じ旭川六条教会にかよっていた故・三浦綾子さんが、その友のため命を捨てたクリスチャン青年のあかしに感動して書いた作品である。朝日新聞懸賞小説『氷点』で華々しくデビューした三浦綾子さんの作品の中で、クリスチャンの生き様を真正面から描いたこの小説は、35年前に世に出た時は、むしろ、一般の人々には地味で受け入れられないのではと危惧する声もあった。

 だが、現在までに、世界13か国で発行され、日本では331万部という驚異的なベストセラーとなった。それだけでなく、この小説の持つ魅力は、読者に、生きる意味を問いかけ、生きる勇気を与えてきた、という点にある。今でも、小説の舞台となった塩狩駅には、長野政雄さん(小説の中では永野信夫)の思い出に浸りたいと多くの人々が訪れている。

 今年、長野政雄さんの殉職95周年に当たり、その事故の起こった日付、2月28日に、全国から多くの人々が記念のアイスキャンドルの集いに集まった。そこで語られたのが「究極の愛とは何か」。綾子さんの夫で三浦綾子文学記念館長の三浦光世さんは、小説「塩狩峠」の一節を朗読、究極の愛とは、長野政雄さんを生かしたキリストの十字架の愛であることを自らの体験を交えながら語った。

(守部喜雅)

*月刊「百万人の福音」で、2004年4月号から「長野政雄の愛と死〈実録・塩狩峠〉」が好評連載中です。