定年後の暮らしに備えがありますか 第3回 迎える家族の心構え

田口誠弘
熟年いきいき会 代表

著者・田口誠弘氏
42歳の時、社内紛争のあおりを受けて左遷・降格。挫折をきっかけに、社員教育、マネージメントの専門家の道を目指す。
バブル崩壊で大損したことがきっかけで1994年、55歳で受洗。現在、有料老人ホーム・コンサルタント、地域での「無料相談」コンサルタント兼カウンセラー。豊かな熟年ライフをサポートするグループ「熟年いきいき会」を立ち上げ、代表となる。
NPOふれあいアカデミー情報ネットワーク担当理事。
ホーリネス・池の上教会員。67歳。
 前回は「サーバント・リーダーシップ」を体得すれば、あなたは企業人として成功し、同時に、地域で成功する特性を組織の中で身につけることができる、と述べました。 その知恵(ノウハウ)は定年後、長期的にSOHO(スモールオフイス・ホームオフイス)などで独立自栄し、安定収入を得る道ともつながっています。

 今回は、定年後の生活に不安を感じている人へどう接すればいいのか、また、定年を迎える人は家族に対してどのように接すればいいのかを提案したいと思います。

定年の受け止め方

 六十歳を過ぎてからの人生には、いろんな選択肢があります。多くの人は悠々自適の生活を求めます。それに何も文句を言うつもりはありませんが、社会とのかかわりを持たない生き方や、遊びだけの毎日はつまらないような気がします。生きていてうれしいという実感が持てないのではないでしょうか。社交ダンスばかりしている女性もいます。ゴルフだけしかしない男性もいます。さらに年を重ね、社交ダンスもゴルフもできなくなったらどうしたらよいのでしょう。

 私は、定年以降の生活から人生の醍醐味が始まる、という認識を持っています。自分に与えられた能力や特技を生かして少しは他人の役に立ちたいと願っています。

 そうしていると、周りには同じ考えの仲間が寄ってきて、一緒にいろんなことができるようになります。定年は人生の始まりであり完成期です。豊かな人生とは定年後を差して言う言葉だと解釈しています。

 しかし、多くの人が豊かな人生を迎えようとするとき、ひとつの課題にぶつかります。定年後、夫が家庭に入ると、夫婦間に問題が生じてくるのです。

 いつもいない人が毎日家の中にいるため、妻の生活のペースが崩れ、ストレスとなり、風邪をひいたり、健康を害したなどとよく聞きます。

 マスコミでは、定年男性に浴びせられた不名誉な言葉が伝えられています。「恐怖の“俺も行く”」というのもあるそうです。これは、行き場のない夫が妻の外出についていこうとするとき妻が感じる「恐怖の表現」だそうです。 このケースは定年後の半数ぐらいの夫婦に当てはまるのではないかと思います。

 男性側にも同情はしますが、「めしを作るのは女の仕事」「老後は妻の世話にある」とか、「妻に看取ってもらい臨終を迎える」などと構えてはいないでしょうか。「どちらが先に亡くなるかは神様しだい」なのですから、ここは男性が認識を改めるほうが豊かな老後を手に入れる早道のようです。

将来について話し合おう

 私が主宰する熟年いきいき会でのおしゃべりからでてきた「夫婦・家族とのよい関係を創るヒント」があります。それは、 定年の一年以上前から、定年後の過ごし方について夫婦で話し始めることです。夫婦の考えを出し合うとよいでしょう。定年後のライフスタイル設計を一緒にするわけです。 利害が相反することは後回しにして、将来、夫婦としてどんな生活を送りたいか話しあってください。いきなり夫が小遣いの額について交渉するのは少し違います。

頭から押さえつけずに

 定年後の夫に家事を要求するのは自然だと思います。夫はサラリーマンの間、仕事が判断の優先基準でしたが、それが取り去られたら少し妻の持分を分担するのがいいと思います。 私が家庭にいるようになって気付いたのは、妻が常に家族のことを考えているということでした。定年とは妻とともに新しいライフスタイルに変わることですので、家族のことに夫も配慮するのは自然なことだと考えます。しかし、男性は給料のため会社で上役にさんざん頭を下げてきたので、定年後まで奥さんに頭を押さえつけられれば、いい気持ちはしません。

 今まで家事をしたことがない夫に、家事の分担をしてもらう決め手は、夫が少しでも家事に手を貸したら、結果のいかんにかかわらず、無条件で妻が喜びを表す、というやり方です。失敗しやすいのは、理詰めで「家事は平等よ」とばかり、子どもをしかるように家事を仕込もうとすると確実にトラブルがおこります。反発されて、逃げられるのが落ちです。

地域デビューのアシストを

 定年を迎えた人に必要なことのひとつには、地域に密着して生きるということが挙げられます。地域で支え合うグループ活動に関心を持ち、町内の寄り合い、老人会、健康体操の会、趣味の会などに顔を出せば、そこから新しい人間関係が生まれます。過去の肩書きなど一切捨てて、自分らしさを素直に出してお付き合いをすれば地域に入るのは容易です。 多くの女性は地域とのかかわりをすでに持っています。地域の同好会や自治会にも所属して活動されている方が多いので、今度は、夫が地域デビューするのを手助けすることができると思います。

 夫の特技や価値観から判断して、公民館などから夫の得意な分野の地域活動情報 (イベントのチラシなど)を持ち帰り、さりげなく提供します。選択は夫に任せます。

 中には共通の趣味(たとえばコンサートなど)があったら、夫に声をかけて引率して行ってあげるとよいでしょう。私の会にもこの手で夫を「落語」に誘い、地域デビューを成功させた女性がおられます。

夫婦仲がいいと地域で尊敬される

 夫婦のいい関係づくりの決め手は、夫婦の価値観の差や意見の違いを無条件で受け入れ、共通する部分を前面に出して、生活を楽しむようにすることです。地域は狭いので、夫婦関係の良い悪いはすぐ目に留まります。 夫婦仲がよい家族は地域で歓迎(信用)されます。さらに、地域で歓迎される夫婦は地域活動を通じて、お互いに成長するというメリットを享受できます。その結果、地域から受け入れられ、感謝され、信頼されて、熟年人生の成功者となれます。

 ただ、仲良くしたくても長年の「意地の張り合い」で仲良くなれない夫婦が多くいます。 しかし、その夫婦関係を修復したいのならば、希望を捨てないでください。

 私の知り合いにもセックスレス夫婦がおられました。結婚前、妻は活発で、リーダーシップのある方でしたが、結婚してからは夫が有能なビジネスマンであり、世間を知っていた関係で、常に夫にコントロールされており、それが欲求不満となり、次男が生まれてからはなんと十五年も夫を拒否するようになりました。実はカウンセリングをしていますと、このようなケースはそんなに珍しくありません。

 仲直りのきっかけは、夫が好きなサッカーの観戦でした。妻は夫との旅行も、いつも拒否ばかりしていました。しかし、夫がイタリアでのサッカー観戦を提案したときに、観光旅行に名を借りて、妻が一緒に旅行に行くことを同意したのです。この夫婦は海外で愛を確かめ合い、本来あるべき夫婦に戻ることができました。


 次回は、より具体的に夫婦のよい関係をつくる知恵を考えたいと思います。