定年後の暮らしに備えがありますか 第4回 家族とのよい関係をつくる

田口誠弘
熟年いきいき会 代表

著者・田口誠弘氏
42歳の時、社内紛争のあおりを受けて左遷・降格。挫折をきっかけに、社員教育、マネージメントの専門家の道を目指す。
バブル崩壊で大損したことがきっかけで1994年、55歳で受洗。現在、有料老人ホーム・コンサルタント、地域での「無料相談」コンサルタント兼カウンセラー。豊かな熟年ライフをサポートするグループ「熟年いきいき会」を立ち上げ、代表となる。
NPOふれあいアカデミー情報ネットワーク担当理事。
ホーリネス・池の上教会員。67歳。
 前回は、定年後の幸せは夫婦の関係の善し悪しに大きく左右されると申しました。

 「熟年いきいき会」の活動の中で、よい夫婦は二〇パーセント、良くも悪くもないが五〇パーセント、残りの三〇パーセントは家庭内離婚状態にあると推察しています。

 夫婦仲が悪い原因は、いろいろとあると思いますが、その本質は「相手をさばく」ことと「相手をコントロールしようとする」ことといえるでしょう。つまり、相手が悪い、改めるべきは相手のほうだ、と信じて疑わずに相手を責め続けていることが原因だと考えています。夫婦仲を良くしたいと願うのなら、相手との違いをそのまま受け入れる、相手をさばかない、相手をコントロールしようとしないことを意識し、実践することをおすすめします。

違いをそのまま受け入れる。違いがあるからいい

 四十年も一緒にいれば、夫婦はお互いの欠点がいやというほどわかります。四十一年目に突然それが直ることなどありません。どちらか一方だけに欠点があるのでしょうか。 欠点があれば、それを反対から見た長所があります。それを見るようにしましょう。

相手をさばかない

 相手をさばくのは止めましょう。さばくのは神様にまかせて、欠点を補い合うことに注意を向けてみてはいかがですか。 

相手をコントロールしようとしない

 人は他人を支配したいと思う遺伝子を持っています。それは夫婦の間にも当然あります。夫婦の関係は契約関係であるともいえますが、法律やコンピューターの世界に通用する論理だけで成り立っているのではありません。どこまでもアナログの価値観で動いています。自分は正しい、正義は自分にある、というだけで夫婦の関係を進めていこうという夫婦には明日はありません。 夫婦は見つめ(にらみ)合わないで、横に並んで同じ目的・同じ人生のゴールを見るようにしたいものです。

 そのためにお勧めしたいのが、夫婦で時間を共有することです。何をするのも一緒にとまでは言いませんが、毎日の買い物やウォーキング、旅行、地域活動など一緒に行動すると自然と同じ方向を見るようになります。自分たちが望む介護、終末医療、葬儀の仕方、相続などについて二人で話し合うこともお勧めです。

けんかしている場合ではない

 私は、「どちらかが先に召される。けんかしている場合ではない」と考えることにしています。

 60代の夫婦で「どちらが相手を看取るか」と質問すると、夫が妻を看取る可能性は15パーセント、妻が夫を看取る可能性が85パーセントあると考えているという答えが出てきます。しかし、現実には、これと違うことが毎日起きています。

 「家内に看取ってもらって、後のことは妻にまかせよう。面倒はいやだ」、と思っている男性は特に注意してください。「面倒はいやだ」の男性が妻に先立たれたとき、悲劇が起こるからです。

 神様は時々とんでもない意地悪をします。私の知人にも、妻に突然先立たれ、「想定外」の衝撃で強度のうつ病に落ち込んだ男性がおられます。

死への恐れもなくなる

 夫婦仲がいいと地域で尊敬される、と申しましたが、さらに私は、夫婦仲がいいと天国に行きやすい、と本気で信じています。なぜなら、先に行ったほうが後から行くほうを呼び上げるからです。夫婦仲が良い二人のうちひとりが先に召されると、天国に行けば会えるという心の平安が常にあり、心が満たされ、死についての恐れがほとんどなくなるからです。

 したがって、夫婦は生きている間に、妻は、夫の定年後の人生を充実するために自分にできることはないかを考え、夫は妻の残りの人生を充実させるために自分としてできることはないかを考えてお互いに仕え合うことが得策です。

親子関係は子供の自立を大切に

 また、親子関係についても考えておくことが必要でしょう。親が子離れすることも重要なことだと思います。「この家を継いでもらって、動けなくなったら長男の世話になろう」などと子どもを信じることはすばらしいことですが、慎重に考えることをお勧めします。

 先日の「熟年いきいき会」でも、同居している長男から「お母さんと家内が一緒におぼれたら家内を助ける」と言われた、と発表した方(七十八歳)がおられました。これに対して、周りからは「ショックでしたでしょう」の声が多くあがりました。しかし、本人は「自分が自立するにはよい」と平然としていました。

 私もそれに賛成です。親が子から自立し、子は親から自立するのは当然のことだからです。「さわやか財団」代表の堀田さんも「子は親の敵である。その意味は、子は親も好きだが、自分はもっと好きだ、ということです」といわれていました。良いか悪いかはともかく、これからの親子関係はこういう方向に進んでいくことでしょう。


 最近私は「豊かな老後の自己評価表」(表・)を作りました。読んでみて、笑ってしまう方もおられることでしょう。

 現在の自分がどの段階にいるのかを自己評価してみてください。今の評価も大切ですが、これからどの段階に向かうかがもっと大切です。

 また、定年後にトラブルを起こす傾向のある人についても表(表・)にしましたので、ごらんください。


 次回(第5回・第6回)は教会への提案として、定年を迎え不安を抱える壮年に教会はどのようにアプローチしたらいいのかについて述べたいと思います。