時代を見る目 128 世界に目を向けて(1) あなたの愛する人が

片山信彦
特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン 常務理事・事務局長

 現在、世界の人口は64億人と言われています。その80パーセントにあたる51億の人々が開発途上国と呼ばれる国々に住んでいます。それらの人々の状況は次のようです。

 一日一ドル以下の生活を強いられている人─12億人/安全な水が確保できない人─11億人/下水を利用できない人─24億人/字の読み書きのできない人─9億人/HIV/AIDSに感染している人─3600万人/学校に通えない子ども─1億2千万人/防げる病気で亡くなる五歳以下の子ども一日─3万人、年間─1100万人/廃止すべき児童労働に従事している十七歳までの子ども─2億5千万人(世界の同世代の六人に一人の割合)。

 これが今の世界の現実です。しかし私たちは、このような数字を見てもことの重大性と深刻さを実感できないのではないでしょうか。これらの問題解決のためには国際協力が大切だと言われています。ところが、国際協力や海外援助の重要性が叫ばれても、何か他人事のように感じ、だれかが、何かの働きをしているのだろうくらいに思ってしまうのではないでしょうか。

 でも想像してみてください。この中のひとりが自分の子どもや孫、兄弟や父母などの家族、あるいは愛する人だとしたらどう感じるでしょうか。

 自分の家族は二日に一度だけしか食事ができず、次の食事がいつ取れるのかと、いつも空腹感と不安を持っている。読み書きのできる家族がいないので、だまされて偽りの契約書にサインしてしまった。子どもはHIV/AIDSですでに亡くなり、孫はHIV/AIDSに母子感染してしまった。年老いた自分がいつまで孫の面倒を見られるか不安だ。十歳の子どもは貧しさのために学校に行くことができない……。

 もしこのようなことが身近で起きていたら、あなたは愛する人をその状況から救い出すためにできる限りのことをしたいと思うのではないでしょうか。

 貧困の中に苦悩する人々を単なる数字や情報としてとらえるのでなく、身近な存在、隣人として、また自分と同じ一人の人間だったらどうだろうかと問うことが国際協力の原点です。そして、自分には何ができるだろうかと思い巡らすことから具体的な働きが始まります。その意味で国際協力は「あなたの隣人を愛せよ」と語られた主イエスへの一つの応答なのです。