時代を見る目 211 3・11――あの日の記憶、そして今 [4] 故郷

千葉 寛子
歯科医師
日本キリスト教団 大船渡教会員

今ほど「ふるさと」の歌がしみじみと心に響いたことはありませんでした。日本中、そして世界の国々からの支援・絆に感謝の気持ちでいっぱいです。故郷は根こそぎ奪われてしまいましたが、私たちは再び歩み始めています。1991年、私は岩手県盛岡市での勤務医を辞し、翌年4月に生まれ故郷、岩手県大船渡の地に歯科医院を開設しました。そして2009年5月に神様のお導きにより受洗しました。
「見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない」(創世記28章15節/新共同訳)
このヤコブの夢のことばに、ああ、すべて神様に守っていただいていたのだと心底実感しました。
そして2011年3月11日、故郷が消え去り、驚愕から慟哭へと変わる中で、神が啓示する使命とは……と問い続けてきました。二人、三人と集まる中に主イエス・キリストはおられる。いと弱き者、いと小さき者の中に、主イエス・キリストはおられる。
私は人として、医療人として、苦しむ患者さんに寄り添いつつ、自らの成長を主にゆだねてまいります。

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昨年12月4日、福島市で「いま求められる歯科医療―国民の生活を支える歯科医療」と題して、日本歯科医学会の平成23年度学術講演会が開催されました。私たち岩手・宮城は、地震、津波の被災地ですが、福島はさらに原発事故と三重苦に見舞われています。原発から60キロ離れた福島市内を訪れ、日常にわずかに触れただけでは何も推し量ることはできませんが、被災地に心を寄せてくださっている多くの人々とともに祈ることはできます。
いのる、祈る―。2006年9月に初めて大船渡教会を訪ねる前は、このことばがこんなに深い意味合いで自分の人生にかかわることは想像もできませんでした。今、信徒としてまさに祈りを中心として生活は展開されると理解できるのですが、50年近く仏教徒として過ごしてきた日々の習慣はなかなか消え去ることなく、私なりのあり方で神様に導いていただいて、これからの人生を歩んでまいりたいと思うこのごろです。「主よ……わたしたちにも祈りを教えてください」(ルカ11章1節)
被災地に眼を注ぎ続けていただきたいと、切に願います。