300号記念特集 本で逢えたら コラム 私の読書体験


小林 基人
北海道聖書学院・学院長

 「私が経験するのではなく、経験によって今の私がある」ということばを聞いたことがあります。今、神学校の働きに関わる中で、若い人たちに、多くのよい経験を重ねてもらいたいと心から願います。それによって、信仰がしっかりと人格と結びつき、練られていくからです。

 そして、その経験には本を読むことも含まれるでしょう。確かに汗を流しながら山を登ることと、ただ地図を眺めることとは雲泥の差があります。しかし時には、本を読むことの方が直接的な経験にまさることがあります。それは、読書が時代と空間を越えて、大きな出会いを与えてくれることがあるからです。

 私が学生時代、ある町で2週間ほど社会調査をしていました。その町の小さな図書館で調べ物をしていた時、一冊のアッシジ・フランシス(13世紀フランシスコ会の創始者)の伝記を見つけ、一気に読みました。彼の澄んだ信仰のまなざしが、見事に物事の本質を見抜いていることに驚愕しました。それは、今取り組んでいる社会調査でも到底たどりつけない深さがあると直感したからです。

 あれから30年余りたった今でも、その本と出会った感動は鮮明に心に刻まれています。