CD Review ◆ CD評 「天国での食事」と名付けられた
極上のミュージック

『 Heaven’s Meal』
Steve Sacks
サックス奏者&作曲家 

 演奏テクニック、音楽の知識や理解がたくさんあるミュージシャンが、シンプルでハートフルな深みのある聴きやすい音楽を作るのは大きなチャレンジです。
しかし、ユニークなピアニスト&作曲家である赤津ストヤーノフ樹里亜は、このチャレンジをさりげなく乗り越えていると思います。ブルガリア人と日本人クラシック音楽家の間に生まれたアーティストである彼女は、このCDで、優れた音楽性だけでなく、多国で育ったゆえの豊かな想像力と表現力を表してくれています。
彼女の基本作曲スタイルを代表する一、二、三、五曲目には、ヨーロッパの古代フォークミュージックとか、現代の「癒し系音楽」の影響が感じられます(ブルガリア産の変拍子リズムも所々出てきます)。とは言いながら、演奏自体の幅広い音量によるメリハリ、しなやかなテンポ感とピアノの様々な音色使いを通して、本人の情熱が明らかに伝わってきます。シンプルなメロディーを弾いても、少し眠たいヒーリング・ミュージックより、かえって彼女が若いころから愛してきたショパンに聞こえるぐらいです。原曲はオリジナルではありませんが、G・ホルストの有名な「Jupiter」は、彼女の編曲によって全く新鮮な印象を与えてくれます。代わる代わる激しくなったり穏やかになったりする前奏の後、ホルストの気高いテーマをクライマックスまで自分らしく展開しています。また、「Bahiaの思い出」では、本人が数年間住んでいたブラジルへの愛情を感じました。海の波の音に囲まれて、緩やかに流れるハーモニーやサンバ・リズムを真似するメロディーが本人の唄声に飾られています。独特なCDに、独特なエンディング。
聖書の黙示録には、Heaven’s Meal(天国の食事)の話が出て来ますが、詳しくは描かれていません。しかし、神の国の特徴を聖書的に考えると、天国の大宴会のイメージがなんだか頭に湧いてきます。最上の美味しさと栄養価。風味の多様性と調和。また何よりも、宴会の世話役と周りの客との完璧な交わり。このCDを通して、永遠の大宴会の一口を味わえることでしょう。

<収録曲> 1.いざない 2.水色の天使 3.光と闇 4.Jupiter 5.紅い風 6.The Voice of Origin 7.MARIA 8.Bahiaの思い出All music by Julia Akatsu Stoyanov(except “Jupiter”) * 本人による曲目解説&書き下ろしメッセージ付き