DVD 試写室◆ DVD評 124 「悪党(ワル)にもラブソングを!」

DVD「悪党(ワル)にもラブソングを!」
大橋由享
イエス・キリスト ファミリー教会牧師

教会で立てこもり事件発生! その夜、なにが起こったか?

 「俺は、誕生日を祝ってもらったことがないんだ。里子に出された時に出生届をなくされて、誕生日がいつだかわからないのさ」。

 リージョンのことばに、教会秘書のドリスは驚く。しかし、その目にはすぐに愛情があふれた。「いえ、わかるわ。今日が誕生日よ」。ドリスは、自分のネックレスを外して彼に握らせ、その手を両手で包みこむと、「ハッピー・バースデイ・トュー・ユー」をしっとりと歌うのだ。黒人特有の節回しで…。

 歌い終わったドリスが両腕を広げると、リージョンは思わず身を預けた。こうして、立てこもり犯と人質はしっかりとハグを交わしたのである。分厚いドリスの肩越しに、リージョンの頬を一筋の涙がつたうのが見える。これが、作品を象徴するシーンであろう。

 今回、ご紹介するのはDVD「悪党(ワル)にもラブソングを!」。教会を舞台にしたハート・ウォーミング・コメディーである。

 主人公は、デュエルとリージョンの黒人2人組。ある夜、彼らは、町の教会に泥棒に入る。新会堂建築のために集められた資金をねらったのだ。ところがハプニング発生。教会の人たちを人質にして、立てこもるはめに……。

 そんな2人であったが、長時間、教会の人たちと過ごすうちに、少しずつ、少しずつ心を溶かされていく。そして、とうとう現金を残して去ることを決意したのだが、皮肉にも、その直後に警官隊が突入。逮捕されてしまうのだ。しかし、最後は思わぬどんでん返しが待っている。それは、観てのお楽しみ!それにしても、登場人物が皆、魅力的だ。主人公のデュエルは、逮捕歴あり。離婚歴あり。愛する息子とも引き離されようとしている。寡黙な男が、いかんともしがたい状況の中、内側に怒りをため込んでいく。

 一方、相棒のリージョンは、その生い立ちにもかかわらず、底抜けに明るい。しかし、悲しいほどに間抜けで、デュエルの足を引っ張りまくる。これが笑える!教会の面々は、かなりデフォルメして描かれているが、思わず、「ああ、こういう人、いる、いる!」と声を上げてしまう。それもそのはず、脚本も手がけたデビット・タルバート監督は、父親が牧師。彼は、この映画に登場するような、個性的であくが強いけれど、愛にあふれた教会の人たちに囲まれて育ったのであろう。

 大笑いしながらも、愛について、赦しについて考えさせられる作品である。