自然エネルギーが地球を救う 第5回 ここまで来ている風力発電の可能性

足利工業大学理事長
牛山 泉

二〇一五年末、世界風力エネルギー会議は、世界の風力発電の累積設備容量が四二五ギガワットに達し、世界の原子力発電の累積設備容量を超えたという驚くべきデータを発表した。さらに、二〇一九年には六六八ギガワットに達することになると予測している。原子力発電所の平均的な出力は一基が一〇〇万キロワット、つまり一ギガワットであるから、世界の風力発電の累計は原発四〇〇基分をはるかに超えているのである。圧倒的に設置容量の多いのは中国で三〇ギガワットであり、これにアメリカ、ドイツ、スペイン、インドが続いている。日本風力発電協会によれば、残念ながら国内の風力発電の累積設備容量は三・〇四ギガワットで、世界の二〇位にすぎない。
また、風力発電において重要な指標となる、その国の電力供給に占める風力発電の割合については、デンマークが圧倒的に多く二〇一五年末現在三四パーセント、ポルトガル二四パーセント、スペイン二〇パーセント、アイルランド一八パーセント、そして、二〇二二年までに原発停止を決めているドイツが一一パーセントである。電力需要の一〇パーセント以上を風力で賄っている国が五か国もあるのだ。さらに、主要国ではイギリスが九パーセント、アメリカが五パーセントに達しているが、日本は僅か〇・五パーセントにすぎない。

わが国では、再生可能エネルギーの導入加速化のために、福島原発の事故の翌年二〇一二年七月以降、固定価格買い取り制度が施行されたが、太陽光発電のみが八ギガワットと急速に伸びたものの、同年に大型の風力発電所の建設には環境影響評価が義務づけられたこともあって、手続きに三―四年もの期間を必要とすることから、新規の導入は停滞しているのが現状である。
しかし、わが国の再生可能エネルギーのポテンシャル調査の結果からは、洋上を含めた風力のポテンシャルは太陽光やバイオマスなど他のエネルギー源と比べて桁違いに大きい。日本風力発電協会によれば二〇二〇年には、現状の三倍強の一〇ギガワットに拡大することが予想される。

「風はその思いのままに吹き、あなたはその音を聞くが、それがどこから来てどこへ行くかを知らない。」(ヨハネ3・8)とあるが、わが国の風況予測システムは極めて信頼性が高く、風力発電の適地は高い精度で特定可能である。風力発電は風況に恵まれた場所を選べば設備利用率も二五―三〇パーセントが期待でき、これは太陽光発電の二倍以上である。今後は陸上に比べて風が強く乱れも少ない上に、騒音問題や景観問題とも無縁といえる洋上風力発電が展開されるものと予想される。欧州においても島国のイギリスが洋上風力発電に注力しているように、我が国も排他的経済水域世界六位という圧倒的な好条件を生かすべきである。
一方、風力発電システムの技術的な成果として、福島沖には世界最大の風車直径一六五メートル、出力七メガワットという浮体式洋上風力発電システムが実証試験運転を行っており、その成果には世界が注目している。これと同じ規模の超大型洋上風力発電システムが日本とデンマークの合弁企業MVWにより開発されイギリスからの一二〇基の受注をはじめとして大きなマーケットが見込まれている。
とはいえ、風力発電の本格的な導入に向けては幾つかの解決すべき課題も見えている。まず第一に、風力発電事業者や風車メーカーの投資を誘引するためには、二〇三〇年に向けた導入目標値一・七パーセントはあまりにも低いことから、目標の上方修正と明確化が必要である。次に、地域活性化のためにも、国内風力発電産業と風力発電事業の確立が不可欠であり、これにより新たな雇用も生まれることになる。これには、風車メーカー間の企業間連携や部品や要素の共通化、標準化なども必要になる。また、風力発電のための専用送電線の新設や洋上風力発電のための専用船の開発や港湾インフラの整備も必要になる。さらに、先送りできない重要な課題は、陸上、洋上を問わず風力発電の安定的な運転継続のためには、運転・保守のための人材育成の必要性が年を追うごとに増大するはずである。
聖書にも「収穫は多いが、働き人が少ない、だから、収穫の主に、収穫のために働き手を送ってくださるように祈りなさい」(マタイ9・37―38)とあるように、神の息である風を生かすべき人材は不足しており、育成には時間もかかるのである。