自然エネルギーは地球を救う 第6回 こんなにある創造の恵み

牛山 泉

東日本大震災で、火力と原子力を中心とする電力システムの脆弱さと危険性とに直面してから五年が過ぎた。生活で、仕事で、普段使っている電気をどこから調達し、どのように使っていくべきか、私たちはいま、新しいエネルギー体系構築の岐路にいる。圧倒的多数の国民の願いは脱原発と再生可能エネルギーの積極的導入である。とはいえ、果たして地球上に、そして日本に、私たちの生活を維持できるほどの自然エネルギーが存在するのであろうか。「求めなさい。そうすれば与えられます。捜しなさい。そうすれば見つかります。たたきなさい。そうすれば開かれます」(マタイ7・7)という言葉はエネルギー問題についても真実なのであろうか。

二〇〇九年秋、駐日デンマーク大使に、日本風力エネルギー学会の恒例のシンポジウムの基調講演をお願いしたことがあった。このときのテーマは「二〇五〇年、デンマークは化石燃料を一切使いません」という刺激的なものであった。その後、私はデンマークでの学会の帰途に同国のサムソ島(人口約四千人)を訪問したが、この島はすでに自然エネルギー一〇〇パーセント以上となっていた。また、もう少し大きなロラン島(人口約五万人)も自然エネルギー一〇〇パーセントの島となっていることがNHKスペシャル番組で紹介された。また、国内でも、津波と原発の被害を受けた福島県は、「二〇五〇年自然エネルギー一〇〇パーセント」宣言をしている。
では、日本に自然エネルギーはどの程度賦存しているのであろうか。二〇一一年四月に環境省が発表した「日本の再生可能エネルギーポテンシャル」によると、いずれも一〇〇万キロワット(一ギガワット)単位で、太陽光一五〇、陸上風力三〇〇、洋上風力一六〇〇、中小水力一四、バイオマス三八、地熱発電一四となっており、その合計は二一一六ギガワット、つまり通常の原発は平均して一基一〇〇万キロワット(一ギガワット)であるから、日本の自然エネルギーの潜在量は原発二〇〇〇基を上回るほどの巨大な可能性を秘めている。まさに、「神の川は水で満ちている」(詩篇65・9)のであり、日本は自然エネルギー王国なのである。         *
二〇一五年に発表された、政府の二〇三〇年における電源構成計画によれば、火力発電で五六パーセント、自然エネルギーで二二―二四パーセント、原子力で二〇―二二パーセントとしている。原発依存度二〇パーセント以上とは、運転期間四十年を超えて六十年まで運転するか、新規の増設なしではありえない。また、引き受け手のない使用済み核燃料や原発関連施設のある全国八市町村に対して二〇一七年度以降、少なくとも毎年計二十九億円が入るようにすることを決めるなど、あれだけの犠牲を払っても相変わらず原発利権構造が継続されていることは倫理的にも許されないことである。「わたしに帰れ。―万軍の主の御告げ―そうすれば、わたしもあなたがたに帰る、と万軍の主は仰せられる」(ゼカリヤ1・3)とある。原発を手放さなければ、新しい動きに対応できないのである。
世界の動きを見ても、ドイツ最大のエネルギー企業エーオンは、二〇一六年に会社を二分割し、原子力・化石燃料による伝統的な発電事業やエネルギー資源の採掘などの事業を将来新設する別会社に移管することにして、これまでの基幹事業から事実上撤退することを決めている。そして、風力や太陽光などの自然エネルギー、これらによる分散型発電に適応するためのスマート・グリッド、顧客のニーズに対応する電力供給サービスの三本柱に特化することになった。エネルギー界の巨人といわれるエーオンでさえ、このような根本的な変革を行って、エネルギー市場の変化に対応しようとしているのである。
私の勤務する大学のある栃木県を考えてみても、「自然の恵み」として、(1) 快晴日数が多く、特に冬季の日照時間は全国三位、(2) 森林面積は県土の約五五パーセント、(3) 耕地率は全国五位、(4) 温泉の源泉数は全国十一位、
(5) 農業用水路での中小水力発電は地点数六十五か所で全国一位、ということが分かっている。このような自然の恵みを生かして、太陽光発電やバイオマス発電、中小水力発電、さらには温泉熱利用などを積極的に導入してゆくことがエネルギーの自給向上にも温暖化防止にも効果的なのである。それぞれの国と地域が、その地域の自然エネルギーを生かす地産地消のエネルギーシステムは、自治体が主体的に進めるべきであり、これによりエネルギー改革が進み、地方再生にもつながることになる。足元の、創造の恵みに目を向ける時が来たのだ。