特集 星野作品の原点―心の軌跡をたどる 神様が取っておいてくださった企画

 

編集ライター 熊田和子

星野富弘さんの四年ぶりの詩画集『あの時から空がかわった』ができました。今回の作品集は「蔵出しのお宝と新作および人気作品」のみごとなコラボレーションです。そこに、詩画に寄せた書き下ろしエッセイが収められているのですから、まさに、さまざまな角度から星野富弘の世界を味わえる一冊です。
この本のタイトル『あの時から空がかわった』は、一九八六年の詩画「空/かりんの実」の詩の一節がベースになっています。富弘さんが大けがをして入院中、友人にもらった聖書をしばらくたって読み始めたときにこれまでの世界観が大きく変わった、その経験から描かれた作品です。本書の第三章「詩画エッセイ」には当時のことが、大学時代のエピソードも加えて、目の前に情景が浮かんでくるように描かれています。
本書は、二年近く前に企画立案してこのような形になるまで、かなりの紆余曲折がありました。何度も何度もテーマを考え、作品の選択や組み立てを考え、エッセイの提案をして……ダミーまで作りましたが、いずれもまとまらず、お互いに納得のいくものになりませんでした。着地点を模索する間にも星野さんは数回にわたって体調を崩され、回復に時間がかかりました。そんな中でも『百万人の福音』のための新作描き下ろしを毎月休まずに続け、本書のエッセイの下書きも始めてくださっていたのです。

事が動いたのは二〇一五年も暮れに近づいた頃でした。「今まで既刊本に出していない詩画がいくつかあるから見に来て」と電話があり、とにかく年内に方向を見つけたかったので、さっそく美術館とご自宅に伺いました。
息をのむほど美しい原画に、偉そうに私は「これなら何とかなる!」と確信をもって帰ってきたのです。自分で何とかしようと考えたのは思い上がりですが、神様はこのように語っておられるのではないかとしみじみ思いました。
「あなたの前に置かれたのは取っておいたものです。……この時のため、あなたに取っておいたのです」(Ⅰサムエル9・24)
年末年始に集中して全体の流れを考えました。未収録作品および信仰がより明確に表された作品を織り交ぜて章立てを決定。すると、常々星野さんが言われていたように、「いのちのことば社で出す本だから、神様を証しできる内容を」というコンセプトで明確な方向が見えてきたのです。
方向が決まってからの星野さんの対応は目を見張るものがありました。ぜひ五月の富弘美術館開館二十五周年に間に合わせようと、書名の題字もすぐに書いてくださいました。そして、口述筆記の原稿や詩画データのやり取りなどなど、富弘さんも昌子夫人も本当に集中してくださったのです。他にもたくさんの仕事を抱えているお二人の健康が心配になるくらいのスピードでしたが、守られて、三月半ばには印刷に回すことができました。
星野さんのこれまでのスタイルは、作品から神様や信仰のことがじんわり伝わるというものでした。しかし今回は、詩画もそうですが、エッセイもストレートな表現で、時にはこちらが「こんなに書いていいのですか?」と思うくらい明確に語られているのです。しかし、勝手に薄めてしまうわけにもいかず、そのまま進めました。潔ささえ感じる星野さんのきっぱりとした姿勢を見せていただいた思いです。
ぎりぎりまで推敲に推敲を重ねるスタイルは今回も同じでした。昌子さんに「クマダさんは何でも言うこと聞くんだから……」と笑われながら、そりゃあ聞かないわけにいかないでしょうと思いつつ、手直しを重ねました。
本書では、各章ごとに聖書のことばを入れ、その章の作品のひとつひとつが冒頭のみことばを目指していくかたちで組み立てました。そのため、花の季節も制作年代もばらばらですが、星野さんの心模様と詩画作品がひとつになって、私たちに何かを語りかけてくるようです。
実は、前作の『いのちより大切なもの』(二〇一二年刊)が出版された直後、富弘さんのお姉さんとご一緒する機会がありました。時々お会いしてはいたのですが、そのとき私に、「今回の本で、富弘が何を言いたかったのか初めてわかった気がする」と言ってくださったのです。出版に携わる者にとっては何よりのうれしいことばでした。今回の企画を考え始めたときからずっと、いつもそのことばが私の心のベースにあって励まされ、大切なことが人に伝わるものを作りたいと願ってきました。
四月の初めに校了になったとき、星野さんは「(企画立案から)長くかかってしまったけれど、何回も何回も組み立て直したのは無駄ではなかった」「今までずっと心の中にあったものを書けた」と言われました。私もまったく同感でした。あの流れがあったからこその今回の詩画集。神様が大事に取っておいてくださった企画としか思えません。
最後に、星野さんご夫妻のタッグはもちろん、編集・製作チームのタッグも最強だったことをお伝えしておきます。すべての面でサポートしてくださったフォレストブックス編集部の皆さん、最上の印刷に仕上がるようにと細かく色指定をしてくださった管理部門のスタッフ、微妙な色を入念に再現してくださった印刷所の現場チームの方々、出る前から広告コピーを考えたり販路を考えたりしてくださった方々。そして何より、多くの方々の強力な祈りの支えがあったことを心から感謝します。
最近の作品は、詩も絵も「ますます凄みを帯びてきた」感がありますが、本書はそんな星野富弘さんのこれまでの心の軌跡を共にたどれるものとなっています。