愛しきことば 第8回 平和の鐘

カリグラフィーアーティスト 松田 圭子

今月の表紙はテーマを平和とし、鐘を描きたいと思っておりました。映画「サウンド・オブ・ミュージック」のワンシーンのようなガランゴローンと鳴り響く鐘の画像を探してみましたが、なかなかみつかりませんでした。ガランゴローンと鳴るための仕組みも細かく知りたかったのですが、思うようにわかりませんでした。描いたこの建物は、旅行会社の案内に載っていたものです。教会ですとこの鐘と風見鶏のある位置に大きな十字架があるものですが、今回のテーマには、十字架よりかえって鐘であることがぴったりでした。そしてこの建物の場所や何の建物であるかを調べてみると画家・藤田嗣治が79歳にしてフランスのランスという町に建てたシャペル・フジタ礼拝堂でした。正式名はノートル=ダム・ド・ラ・ペ礼拝堂。平和の聖母礼拝堂という意味です。藤田自ら設計や細部のデザインも手掛けたという堂内に入ると、正面に聖母子像のフレスコ壁画があります。藤田が多く描いた宗教画が多くなったのも戦争で亡くなった人たちへの鎮魂の思いが込められており、また新しい平和な時代をつくるために神の世界に近い純粋で無垢な子どもを多く描いていったようです。
私は東京四ツ谷で生まれ。上智大学の一角にあるイグナチオ教会のガランゴローンという鐘の音を聞いて育ちましたが、教会に行ったのは、小学校5年生の時が初めてでした。小学校の日曜参観日の帰りに友人5人と立ち寄りました。(ミサの間はちゃんとじっとしていました。)真っ白なレースのベールをかぶっている人々が印象的で、家に帰ると早速○○米店と名前の入った手ぬぐいを頭からかぶり、階段下の物入れのスペースに入り込み、何を祈ったのか、しばしの時間をそこにおりました。私の少女期のとてもいい思い出です。
「平和」についてきちんと考えること。今の時代だからこそ大切なことです。考えるために何がいるか。歴史を正しく学び、互いを思いやることから始めてみましょう。