自然エネルギーが地球を救う 第11回 日本の自然にある潜在力を生かす

足利工業大学理事長 牛山 泉

二〇一一年三月十一日の、東京電力福島第一原子力発電所の事故以前に稼働していた原発は五十四基。日本の全電力の約三割、日本全体のエネルギーの一三%程度を原発が賄っていた。いま再稼働しているのは三基だけ。老朽化した六基については、電力会社が廃炉を決めている。震災前には、さらに十四基を増設しようとしていたが、その状況は一変し、原発事故は、日本人の原発に対する感覚を大きく変えることになった。
「これからはもう罪を犯さないように」(ヨハネ8・11参照)と主は言われたが、あれから五年半を経過した今でも、メディアの世論調査では原発再稼働の是非を問えば、過半数が「NO」である。

現在、世界には三十万台を超える大型風車が回っており、風力発電の累積設備容量は二〇一五年末で四億三千万kW(原発四百三十基相当)に達し、原発の設備容量三億八千六百万kWをはるかに超えている。現在もっとも普及しているロータ直径八十メートル程度の二MW(二千kW)風車一台で、一千四百世帯の電力を賄い、CO2を年間五千トン削減できるから、環境貢献度もきわめて大きいことが分かる。一方、世界の太陽光発電の累積設備容量は二億二千七百万kWで、原発の設備容量の約六〇%に達している。日本国内でも太陽電池の総設備容量は二〇一二年に施行された「固定価格買い取り制度」により急速に拡大し、二〇一五年末で約三千万kW(原発三十基分)に達している。

環境省の調査では、国立公園などの場所による制約を考え、現在の法律に基づいて、また、経済原則にのっとって開発可能な自然エネルギーの総量を見積もると、現在の総電力設備に対して、陸上風力発電で五五%、太陽光で二八%、地熱で二八%、中小水力で一一%程度。全部合わせれば一二〇%となり、原子力だけではなく日本の電力をすべて自然エネルギーで置き換えることが可能となる。当面はまず原子力を自然エネルギーで置き換え、続いて電力を一〇〇%賄うことである。脱原発を願う多くの国民の希望をかなえるためにも、できる限り自然エネルギーを導入することについてはコンセンサスが得られるはずである。
また、バイオマスは草、木、生ごみ、汚泥、糞尿、など生物資源の総称であるが、木質バイオマスは成長段階では炭酸同化作用により、二酸化炭素を吸収して酸素を出していることから、燃料として使用しても二酸化炭素は増加することがなくカーボンニュートラル(排出されるCO2と吸収されるCO2が同量)である。デンマークでは、麦わらを乾燥・圧縮して燃料とする、コミュニティー発電用の麦わら専焼発電所(排熱は地域暖房に使用)もある。日本は国土の森林率が六七%で世界有数の木質バイオマス王国である。定期的な森林の間伐を行うなど、国土強靱化と間伐材の木質燃料利用を併せて行うことが望まれる。さらに、厄介な生ごみや排泄物もメタン発酵でエネルギー源に転換できる。これらに加えて、日本の排他的経済水域は世界六位で、潮流発電、波力発電、洋上風力発電など海洋エネルギーの潜在力がきわめて大きい。海洋温度差発電は日本が世界の最先端を走っており、技術的検証は済んでいる。

「あなたがたは時を知っているのだから……」(ローマ13・11参照)と聖書は言っている。福島県はすでに「二〇四〇年自然エネルギー一〇〇%計画」を打ち出しているが、日本全体でも二〇四〇年をめどに、ドイツ、スペイン、あるいはデンマークなどがすでに到達しているように電力の三割程度を自然エネルギーで賄うようにして、電力供給の安全体制を作り、次のステップとして電力全体を賄う目標に進むべきであろう。技術的には十分可能であるが、日本独自のきわめて煩雑な許認可業務や電力会社の系統接続制限などが自然エネルギーの導入を抑えていることから、政府が明確な目標を示すことと同時に導入加速のための支援も必要になる。
また、電力の三〇~四〇%以上に自然エネルギーを導入するためには、変動の平滑化のために系統接続の広域連系や電力貯蔵装置が必要になる。これに加えて原発のために設置してきた揚水発電を転用し、これを電力貯蔵に使うことにより、六〇%程度までは十分に安定供給が可能になるはずである。また、日本初のベースロード技術として風力熱発電も注目されている。これは風力で発電せずに発熱させ、この熱を熱貯蔵タンクに貯蔵して、これにより蒸気タービンを回して発電するもので、日独で共同研究が行われている。