愛しきことば 第12回 生かされて

カリグラフィーアーティスト 松田 圭子

早いもので、“愛しきことば”も今回が最終回となりました。12月号ですので、表紙はクリスマスらしい雰囲気の絵と、祈りのことばで締めくくりたいと思います。
私は夫を医療事故で亡くした後、再婚しましたが、その半年後に人間ドックで肺に影が見つかり、その影の位置から肺ガンが疑われ、1週間の検査入院をすることになりました。当時8歳と6歳の娘は入院と聞いてパニックでした。特に長女は私も父親と同じように入院してしまったら戻ってこないと思っていたようです。私は検査入院中、驚くほど冷静にこれからのことを考えていました。まずは、夫と離婚し、娘2人を両親に託すことでした。というのは、再婚してわずか半年で妻はガンとの闘いが始まり、私の子どものために人生を費やしてもらうのでは、あまりに夫の荷が重すぎると考えたからです。
検査は気管鏡で肺の一部を取るというもので、大がかりなものではありませんでしたが、極度の緊張のために手がこわばってしまいました。検査日の夕食後、先生から説明があるとのことで心臓をバクバクさせながら診察室に行くと、「今日は退院するには遅いから明日の朝、さっさと帰りなさい」と告げられたのでした。テレビドラマで見るようなシーンと正反対のことが自分に起きて驚くばかりでした。ガン細胞は検出されず、またガンの次に疑われる結核も陰性でした。ただ影の正体を特定するために培養検査の8週間を待つことになりましたが、その結果も陰性でした。先生の話の後、病院の廊下を歩きながら「私はこれまで自らが自立して生きていると思っていたけれど、何か見えない大きな力に生かされている」と不思議な空気に包まれた感覚がありました。自分の力で生きていたなんて……驕り以外の何ものでもないと思い知らされた体験でした。
その後、教会と出合ったときに、生かされているというこの感覚が生きていくために大切なことだと気づかされました。これこそが回心であり、受洗する決意につながりました。
1年間、私の拙い文にお付き合いいただきましてありがとうございました。またどこかでお会いできますことを祈りながらペンを置きます。