特集 聖書を体験する。教会暦に沿ってみことばを日毎に味わう

さまざまな思い渦巻く新生活のスタートに向け、今までにない角度から、より深い部分で神様との交わりを持つための手引きとなる本をご紹介!

ジョン・ストット
日毎の聖書
ジョン・ストット 著
中台孝雄 訳
定価3,200円+税
東京基督教大学大学院 特任教授 倉沢正則

多くの人が一年で聖書を通読しようと志しますが、それによって聖書の全体が理解できるかというと、必ずしもそうではありません。日毎のデボーションで用いるツールも、手頃で短く聖書の一節から今日の糧をひもとくものから、ある特定箇所の聖書研究的なものまで多様ですが、聖書の全体を理解するように意図されているものは少ないようです。
しかし本書は、聖書の全体をしっかり学べて、しかも日毎のデボーションで用いることのできる優れものです。教会暦に沿って創世記から黙示録までの『聖書全体を一年かけて』(本書の原題)分かりやすく簡潔に解き明かしています。聖書の全体を知りたいという人には「うってつけ」のデボーションブックになるでしょう。

本書は、教会暦に沿って一年を三つの期間(四か月毎)に分け、第一の期間を九月の初めからクリスマスに至るものとして始めています。天地創造からキリストの降誕まで主に旧約聖書が扱われます。第二の期間は、一月の初めからペンテコステ(聖霊降臨日)に至るもので、イエス・キリストの生涯が福音書から概観されています。第三の期間は、五月から八月の終わりまでで、使徒の働きや書簡、黙示録が取り上げられ、聖霊に導かれるクリスチャン生活の力や希望が記されています。もちろん、三期間のどこからでも読み始めることができます。まずその週の主要テーマがあり簡潔な概要が示され、そして一日毎に主要テーマに沿った項目が挙げられ解説されています。この主要テーマと項目設定こそが、世界的な聖書講解者であるジョン・ストットの真骨頂といえるでしょう。「聖書を全体で一つの大きな物語として示す」ためのテーマと項目設定に、彼の晩年の聖書理解の円熟さがうかがえます。

本書の特色は、評者がまとめるまでもなく、ストットの後継者とされ、彼の身近で彼とともに働いたクリストファー・ライトの「日本語版への序文」に遺憾なく記されています。「おそらくストットが神から与えられた賜物の最大のものは、特定の聖書箇所の意味を明確にし、それを今日どのように適用すべきかを教える能力でした」(五頁)と記すように、本書を読むと「なるほど」と納得させられます。今日の視点がそこに加味されているので、実によく腑に落ちて、「そうか」とうなずくのです。
彼が新約聖書シリーズの編集者であり、幾つかの書を担当した聖書講解集『現代人に語る聖書(The Bible Speaks Today)』はまさにその力量が遺憾なく発揮されているものです。さらに、「ストットは種々の聖書箇所を取り上げ、その意味を説明しようと努め、そしてその箇所を聖書の物語全体の流れの中に正しく位置付けています。そうして信仰者個人と教会の世界宣教とに適用しているのです」(七頁)と、「どんぴしゃり」の特色を語っています。「聖書を、全体で一つの大きな物語を示すものとして扱う」(六頁)という観点では、本書の趣旨によく馴染み、一貫したメッセージを読者に投げかけてくる思いがします。

ストットは、「聖書は書かれた神のことばである」というプロテスタント福音主義信仰に立って、そのメッセージを平易な文章で、しかも読者に届く表現で語りかけ、その意味するところを深く解き明かす名人です。そのしっかりとした聖書の理解に立って、聖霊に導かれるクリスチャンの生活と使命についても鋭い洞察を与えています。訳者もその点をくみ取って、端正に訳出しています。
評者は特に、ストットが、聖書からキリスト教宣教を包括的に考察し、福音主義諸教会の世界宣教への一致と協力を促した『ローザンヌ誓約』に教えられ、励まされてきました。クリスチャンのアイデンティティーと使命に目を開かせる聖書のみことばを日毎に味わう書として、本書をぜひ手元に置いて親しみ、熟読してほしいと、私は心から願っています。