自然エネルギーが地球を救う 第16回 暴れる風とどう付き合うか

足利工業大学理事長
牛山 泉

個人としての人間や、集団で経済・生産活動をしている人間社会は、さまざまな形で風と関わってきたし、歴史とともにその関わり方も多様化し、場合によっては深刻な影響を被ってきた。現代に至っても、世界各地で強風や暴風による災害は毎年のように起きている。まさに、「被造物全体が今に至るまで、ともにうめきとともに産みの苦しみをしている」(ローマ8・22)のである。
風による耕地の侵食、農作物の損傷や枯死、森林の倒木、家屋の倒壊や破損、列車の脱線や転覆、送電線鉄塔の倒壊、漁船の転覆、風車ブレードの折損など、挙げればきりがないほど、さまざまな被害が毎年報告されている。人類の歴史はこれらとの戦いでもあった。
台風に相当するものとして、最も一般的なものが「サイクロン」である。熱帯性サイクロンで、大西洋を北上するものは「ハリケーン」、太平洋を北上するものは「タイフーン」と呼ばれている。タイフーン(台風)に比べると局地的になるが、風速に関する限りはるかに強烈な渦巻きである竜巻が「トルネード」である。さらに、工学の分野で大切なのが「ガスト」で、突風と訳されているが、急に強く吹く風、あるいは乱れの激しい風を意味している。

日本を含む東アジアおよび東南アジアは熱帯低気圧が猛威を振るう世界有数の強風地帯である。毎年どこかに強い台風がやってきて、人々の生活を脅かすし、さらに近年は地球の温暖化の影響によるものではないかと思われるが、「激甚」と形容されるような強い熱帯低気圧が増えてきた。風だけなら防風林や防風垣根などの対策も立てられるが、アジアの多雨地域では、時には数時間で一〇〇ミリメートルを超える雨が、強風と共に集中して降る。したがって、この地域の建物は強風に対して頑丈で、同時に強い多量の雨を処理できる屋根や頑丈な防水壁を備えている。簡単な家屋の屋根でも、瓦と瓦を漆喰やセメントで固めたり、スレートやトタンで葺いた屋根の上に、石やレンガ、コンクリートなど重量のあるものを置いている。強風の沖縄では赤レンガと白漆喰の美しいコントラストの景観が特徴的である。途上国では古タイヤを置いている光景もよく見られる。さらに、西南日本や韓国南西部では切り妻屋根の側面の三角形の壁面に雨よけ板を付けている家も多い。特徴的な屋根や壁はその地方独特の景観価値を生み出している。

二〇〇五年八月下旬、私はアメリカの姉妹校イリノイ大学を訪問したが、このときメキシコ湾岸を未曾有のハリケーン「カトリーナ」が襲った。大都会のニューオリンズに大被害をもたらし、死者千百人超、被災者は百五十万人に及んだ。付近の石油関連施設にも大被害を及ぼし、石油価格上昇の影響は日本にも及んだ。このとき、日本の東日本大震災と同様に、ブッシュ大統領と連邦政府の対応が遅れ、食糧、医療品,衣料などの物資が被災者に届かないという状況になった。そのうえ、日本と違ってアメリカでは貧困層は避難命令が出ても行き先も移動手段もなく、略奪や暴力を当局が抑えきれなかった。ルイジアナ州の州兵の多くがイラク駐留中で派遣できず、連邦緊急事態管理局の弱体化が露見するなど課題が明らかになった。
この大型ハリケーンの発生原因については、大西洋、特にメキシコ湾の海水温が高く摂氏三〇度にもなっていたという解説がなされたが、遠因ながら地球温暖化が原因ならば、京都議定書をまとめたわが国はその原因を世界にアピールする必要があったように思う。
最近、台風やハリケーンなどの強風の来襲する頻度が多くなった原因は、海水温の上昇であるというのがほぼ定説になっている。従来少なかった竜巻が各地で発生するのは、地表付近の暖められた湿った空気が上昇し、これが上空の乾いた空気とぶつかって渦巻きを生じ、下降して地面に達すると同時に、さらに上昇気流が多くの空気を吸い込み高速で回転しながら破壊的な力を及ぼすものである。また、このような下降気流が地面に衝突した時に気流が四方に拡がるのがダウンバースト現象で、特に航空機の離着陸時に大きな被害を及ぼすことがある。
一方、風を利用する風車は、強風時には羽根の角度を変えて風を逃がすピッチ制御機構を働かせたり、風車の回転面を風から逸らせたりして、安全な運転がなされるような工夫がなされている。風を暴れさせないためにも、再生可能エネルギーの積極的な導入促進が望まれる。
「見よ。わたしは新しい事をする。今、もうそれが起ころうとしている。あなたがたは、それを知らないのか。確かに、わたしは荒野に道を、荒地に川を設ける。」(イザヤ43・19) 私たちは、やるべきことをして神のわざを待つべきであろう。