時代を見る眼272

クリスチャニティトゥデイ誌編集顧問
ジャーナリスト
フィリップ・ヤンシー

トランプ現象を読む[2] 2016年に失われた遺物
トランプ氏の好きな言葉に「ルーザー」(失敗者・敗者・遺失)がある。2016年の不愉快な遺物として、3つの大きなルーザーがあると思う。
第一に礼儀正しさが失われた。トランプ氏が大統領選の品位を落としたことは非難されるべきだ。ほとんどの対立候補に侮蔑的なニックネームをつけ、大統領選討論会でクリントン氏が話しているのを100回も遮った。威張りちらし、障がいのある記者をあざけり、女性をルックスや体重でけなし、民族的偏見を公言した。弱い者いじめ、人種差別、性差別、排外感情はアメリカ社会の中に常にあったが、大統領候補があからさまにそのモデルになったことはなかった。トランプ氏は自由な社会の最暗部を正当化した。
トランプ氏が勝利したとき、熱心なクリスチャンの友人のEメールの件名に、ヒラリー・クリントンについてこう記してあった。「さあ、さあ、魔女が死んだよ」。トランプ氏のキャンペーンの前まで、その友人がこんなことを言うなど想像もできなかった。
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第二に宗教が失われた。政治学者のロバート・パットナムは著書で、無宗教の人の台頭を宗教と政治の絡み合いへの反発と結びつけている。彼らはクリスチャンを自分たちの価値観を他人に押しつける道徳的多数派と見る。その中で福音の中心メッセージ、罪人への神の大きな愛は見失われてしまう。
「福音派」という言葉の元の意味は「良い知らせ」である。訓練を受けた多くの無私の人々が、世界中で苦しむ貧しい人たちの世話をし、神を礼拝していることを知っている。だがメディアでこの言葉を使うとき、念頭にあるのは超保守の政治的ロビー活動グループで、そのほとんどが白人男性であり、圧倒的に共和党員だ。「良い知らせ」というトーンが党派心の強いとげとげしさの中に消えてしまうのである。
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第三に最も大切で大きな影響を受けたのは真理である。オックスフォード辞典が選んだ2016年の言葉は「ポストトゥルース」(脱真理)だった。事実は二の次で感情にアピールするということだ。トランプ氏は次のように主張するが、間違いだらけだ。「私は初めからイラク戦争には反対だった」「9.11後、何千人ものイスラム教徒がニューヨークでお祝いした」「私ほど女性を尊敬する者はいない」「何百万人が不正にヒラリーに投票した」等々。偽のニュースが元で霧がかかり、結果、いちばん失われたものは真理である。