特集 宗教改革から何を学ぶか ドイツで経験する宗教改革五百周年

ドイツ・ハンブルク在住 宣教師 井野 葉由美

今年はマルティン・ルターがヴィッテンベルク城教会の扉に九十五か条の提題を貼り付けた一五一七年十月三十一日から、ちょうど五百年に当たります。一般にこの時から、プロテスタントの宗教改革が始まったとされ、十月三十一日は宗教改革記念日となっています。ドイツでは、今年に限り、この日を国民の休日としています。

全世界のプロテスタント教会において、今年は何かと記念行事が行われているでしょうが、発祥の地ドイツでも、数年前からこの年のために、さまざまな準備がなされてきました。ドイツでは、二年に一度五月ごろに、全ドイツプロテスタント教会大会が、各都市持ち回りで行われるのですが、今年の会場として、ベルリンとヴィッテンベルクが選ばれていました。城教会のあるヴィッテンベルクは、街の端から端まで歩いて十五分という小さな町なので、町全体がさまざまな会場として整備され、街を散策しながら宗教改革について知ることができるようになっていました。教会大会最終日は野外礼拝が行われ、数十万の人々が集ったようです。その様子はテレビでも全国的に放映されていましたが、エキュメニカルな流れで、さまざまなものを寛容に受け入れる内容となっていて、「聖書に書かれていないことを認めることはできない」と、「聖書のみ」に徹したルターが聞いたら、がっかりするのではと思いました。
十月三十一日にも記念行事が予定されていますが、ここではどんな話がなされるでしょうか。ベルリンと、アイゼナッハ(この町のヴァルトブルク城でルターが新約聖書をドイツ語に翻訳した)でも、宗教改革特別展が十一月まで、同時開催されています。

ルターは晩年ユダヤ人迫害の立場をとり、彼の著書『ユダヤ人と彼らの嘘について』は、第二次大戦時、ナチスのユダヤ人迫害の根拠とされました。それで、プロテスタントの修道女会であるマリア福音姉妹会は、ルター派教会に対して、「このことに対する正式な悔い改めがないままで宗教改革五百周年を祝うことはできない」と申し入れましたが、結局、正式には取り上げられなかったようです。先の教会大会にも、メシアニック・ジューの会衆が招待されることはなく、教会内に根強くユダヤ人に対する差別意識があることを思わされます。
ヨーロッパ在住日本人クリスチャンは、毎年夏に各都市で、ヨーロッパキリスト者の集いを開催しています。今年はドイツのライプツィヒを会場に、「宗教改革五百周年、キリストが内に生きる」をテーマに三百二十八名が集まりました。その中で、バッハが音楽監督を務めたトーマス教会にて、総勢七十名の聖歌隊+器楽奏者で、ルターの「神はわがやぐら」を中心とする宗教改革時代の賛美をささげることができました。
現在、生きた信仰を持つキリスト者は二%と推定されるドイツでは、「もう一度宗教改革が起こらねばならない」と言われています。どのような時代にあっても、しっかり聖書に根ざした信仰を持ち続けることが、この記念の年にもう一度問われていると感じます。