書評Books 個人と共同体の霊的刷新のために

カトリック麹町(聖イグナチオ)教会 主任司祭 英 隆一朗

『エクササイズⅢ―ともに神の愛に生きる』
ジェームズ・ブライアン・スミス 著
松本徳子 訳
四六判 2,200円+税
いのちのことば社

この本は、「イエスの弟子シリーズ」の第三巻にあたるものである。カトリック教会においては、司祭・修道者のためだけであった霊的養成(Spiritual Formation)の長い伝統がある。それが一九六〇年代から信徒にも分かち合われるようになり、しかも大胆に刷新されて多くの人びとに霊的影響を与えるようになってきた。それに呼応する形で、プロテスタント教会においても、このような霊的養成を実践する人びとが増えてきたように見える。
本書を読んでみると、カトリックの伝統を大胆に取り入れ、プロテスタントの精神をしっかりと中心に据えた上で、現代の信徒に合わせた適応が見事になされている。カトリックの霊性の本は今でも独身の司祭・修道者が記す場合が多く、どうしても抽象的記述が多くなる。それに対して、本書では、私たちの日常生活を具体的に見直し、刷新するヒントが満載である。特に、私たちが囚われてしまういつわりの物語と、私たちが指針にすべき真実の物語を対比しているので、実際に私たちの信仰生活を見直す基準になるし、刷新して歩むべき方向性として受け取ることもできる。識別の基準がなければ、私たちはすぐに迷ってしまうのだ。
霊的養成は伝統的に個人主義的色彩が強く、今でもそのように受け取っている人びとが多々見られる。もちろん個人の霊的成長は必須であるが、この第三巻においては、共同体に焦点が当てられており、私たちの教会自体を見直し、刷新することを目ざしている。現代の霊性は共同体なしに語ることができないものであり、教会共同体が変わらないことには、私たちの宣教活動に活力が生まれないのではないか。
現代の教会は行き詰まりを見せていて、希望を見いだしにくい。ただ神学の知識を蓄積するだけでは何も変わらないであろう。本書は読むだけの本ではない。その中で提案されているエクササイズ(訓練・実習)を行い、実際に刷新されていくことを目標としている。エクササイズを素直に行ってみて、ぜひとも自分自身と共同体全体の霊的よみがえりを体験してもらいたい。