書評Books 歴史的文脈の中から浮かび上がってくる生のイエスの声を聞く

イムマヌエル武蔵村山田園キリスト教会 牧師  岩上敬人

『イエスの挑戦―イエスを再発見する旅』
N・T・ライト 著
鎌野直人 監訳
飯田岳 訳

B6判 2,500円+税
いのちのことば社

本書はN・ T・ ライトが「史的イエスの探求」の研究成果から、主イエスが一世紀のユダヤ人社会に投げかけた挑戦を、現代の福音派の教会とクリスチャンに解説し、その挑戦をクリスチャンと教会に投げかける内容となっています。イエスが教えた神の国の福音とは、歴史的にどのような意味をもっていたのか、またイエスが用いた象徴(安息日、食事規定、土地、神殿)の意味は何か、キリストの十字架と復活という歴史的事実からキリストの神性と救済の意味を掘り下げながら論じています。
本書を通して私たちは一世紀のユダヤ人社会の歴史的、宗教的背景について大切な知識を得ることができるだけでなく、歴史的文脈の中から浮かび上がってくる生のイエスの声を聞き、その働きを見ることができます。そのような歴史的作業を通して、従来の組織神学的救済論のレンズから読む福音書とは違った光景をライトは私たちに見せてくれます。
私が感銘を受けたのは、ライトの緻密な研究と平易な解説だけでなく、ポストモダンに対する洞察とそこに存在する教会への提言(挑戦)です。ライトが語りかけた欧米の教会と日本の教会の状況はまったく違います。それでも、日本社会もまたポストモダンの思想の影響を受け、変わってしまった、また変わりつつあることも事実です。ポストモダンを福音派の教会とクリスチャンがどのように理解し、その時代にキリストの証人として生きることができるのか、とても大切なメッセージが書かれています。
変わりゆく時代と社会の中で、変わることのない福音を宣べ伝える私たちにとって大きな助けとなるでしょう。一人でも多くのクリスチャンの方々に読んでいただきたい書籍です。
訳者である飯田岳先生は、イムマヌエル聖宣神学院で学び、また米国アズサ・パシフィック大学院で福音書を研究された方です。関西聖書神学校の鎌野直人校長、お二人の先生方の労力によって、とても読みやすい滑らかな日本語でライトの著作を届けてくださいました。