特集 いのちの現場から ひきこもりから共同生活で再出発

『生きづらさを抱える若者たちと―共に暮らし共に生きる若者支援のリアル』
小林 献 著、
K2インターナショナルグループ 編
いのちのことば社
定価1,500円+税

学校や仕事に行けず人間関係をもてないひきこもりは、二〇一六年の内閣府調査によると十五歳から三十九歳だけで推計五十四万人。長期化するケースも多く、四十代にも及ぶ。
そんな生きづらさを抱えた若者たちが、共同生活を通して自立就労し再スタートを切る場所が横浜にある。K2インターナショナルグループ(金森克雄代表)。今年で創立三十年のその働きが一冊の本『生きづらさを抱える若者たちと―共に暮らし共に生きる若者支援のリアル』(本体一五〇〇円+税)になった。現場のリアルを理念と共に伝えるレポートから、なぜK2でやり直せるのかが生き生きと伝わってくる。
始まりは一九八八年、ヨットの会社に勤めていた金森さんが当時「登校拒否」と呼ばれた二十人の若者たちと一緒に南太平洋へ数十日間の航海に出たことから。十三歳から不登校になり三年間ひきこもっていた山本さんは、この「コロンブス大航海」に参加した経験をこう振り返る。
「一つ屋根の下で他人同士が一緒に共同で暮らしていく……いい部分だけではなく、お互いの嫌な部分も自然に見せ合い、どこかで五分五分の関係でもあるのです。その中で、今までに経験したことのない困難な状況になったときに、家族以外の人に相談し、自分自身や一緒に生活する人たち、さらには自然とも折り合いをつけていく……教えるでも教わるでもない、ただただ、家族以外の人と家族的な関わりをする中で元気になっていくのです」
山本さんは、その後二十年以上共同生活を続け、結婚して父親になった現在、K2海外部門の統括責任者を務める。自分が受けてきたことを今悩んでいる人に「恩送り」するのが、K2の対人支援のあり方だ。
共同生活の方法論を横浜や海外拠点に広げ、飲食店やパン屋、ソーシャルファームなどで、働く力を身に付けた若者たちがスタッフとなり後輩に「恩送り」する。誰も排除せず、隣人となり、善悪で人を判断せず、みんな役割がある。その理念の根っこには、聖書に基づく人間理解がある。