野の草を見つめながら 第4回 スクランブル交差点の奇跡

フォトグラファー 市川五月

この日は写真集のために渋谷に撮影に行こうと決めていた日でした。
「こんな感じで撮影できたらいいな」というイメージがいくつかあり、渋谷へ向かいました。渋谷の街は、学生時代にhi-b.aに通っていたので、よく遊びに来ていて、慣れ親しんでいた場所でしたが、今では人混みが嫌でなかなか足を運ばなくなってしまいました。
渋谷駅に到着した途端、胸がドキドキし始めました。急にあることが思い浮かんだのです。
「まさか本当にイメージした『絵』がそのままあるんじゃないだろうか」
神様ならあり得るな、と思いながら真っ先に一番撮影したかったスクランブル交差点の草花を探しにいきました。
その場に着くと目の前で外国人がずっと交差点を渡る大勢の人々の映像を撮影していたのですが、確かに草花はあって、私はたくさんの人々が行き交う交差点で人目もはばからず大興奮で身を屈ませながら、押さえのカットを撮りました。
「神様、本当にすごい……」
ひとまずその場を後にし、ほかのカットも探しに出かけたのですが、まさに渋谷は宝探しのようで、出会う一つ一つの情景が写真集のためにあるようでした。それと同時に言葉も浮かび、写真集に詰め込みました。
高校生の頃の葛藤を思い起こしました。友だちは多かったけれど、なぜか孤独を感じていたのです。まさにこの写真はその心象のようでした。
*      *      *
神様は私によくイメージをくれますが、こんなにはっきり奇跡を見せてくれたのは初めてかもしれません。
昔を思い出すことは、時には古傷を思い出すようでつらいこともありますが、この写真はあの頃の私にも神様の愛が届いていたことを気づかせてくれました。神様が私を癒やし、励まし、回復させ、他者を励ますために今用いてくださっていることは、本当に感謝しかありません。
再び交差点に戻り、撮影を終えました。
「主が良くしてくださったことを何一つ忘れるな」(詩篇103・2)とありますが、写真のおかげで私は何一つ忘れずにいられるような気がしています。