書評Books 十代を見つめる温かなまなざし

十代を見つめる温かなまなざし
玉川聖学院理事 水口 洋

『SMILEFULL DAYS II すべてを、今日につなげてゆくための12の物語』 沖崎 学 著
B6変判 1,300円+税 フォレストブックス

福音を語る者の使命は、その時代の人々の心に届く言葉に聖書を翻訳して伝えることだといわれるが、著者はキリスト教学校の聖書科教師として、キリスト教の背景をもたずに入学してくる生徒たちに、聖書の世界の広さと深さ、奥行きと豊かさを、彼らに届く言葉にして伝えたいと日頃から試行錯誤を繰り返しているようだ。学校ではすべてが生活を通して伝えられるので、教師の人格が問われるのだが、本著を読んでいると、言葉の向こう側から著者の生徒との心の交流が伝わってくる。
前作(『SMILEFULL DAYS I』)では、十二のイエスのたとえ話を用いて、それが二千年後の思春期を生きる子どもたちの現実と重なる物語であることを紹介していたが、続編にあたる本書は、旧約聖書の代表的な人物と十二の物語が取り上げられている。
旧約時代の文化や思想を、全く異なった時代を生きる現代の中高生に伝えるために、著者は巧みに中高生の生活や文化や表現方法を取り入れている。横書きで、見開きのページの左には、キャッチコピーとなる言葉を掲げ、右ページでは、ケータイの画面で馴染みの文字数を意識して物語るレイアウトがとられている。リズミカルで少し滑稽に感じる描写が生徒の心を捉えていく。同時に著者のこころの「つぶやき」もさりげなく書き込まれていく。
「蛇は、手足がなくなって、人とは、そのかたちがまったく違う。するするっとすばやく地をはって、木の上までも、するするっと登る。誰のこころの中にも、するするっと入り込むことができた。」(五五頁)
旧約聖書の物語が、今教室で起こっている心の変容を映し出す身近な物語になっていく。
全編を通して、傷つきやすく揺れ動く十代の心模様に寄り添おうという温かいまなざしが感じられる。こんな大人がそばにいてくれるなら、いつも正解だけを求められ、人が信じられずに心を開けない思春期の子どもたちも、ほんの少しだけ心の窓を開いて風を感じてみようと思えるのではないか、そんな気がした。