書評Books 神が招き入れる「食卓」へ

シオンの群教会 牧師 吉川直美

『こころのよるごはん 眠れぬ夜の詩篇』宮 葉子 著
四六変判 1,200 円+税 フォレストブックス

誰にでも眠れぬ夜があります。人や自分の言動がよみがえってきて悶々と身を横たえる夜─そのまま布団をかぶって寝てしまっても、澱のように苦いものがたまっていきます。著者は、そんな夜だからこそ、「こころのよるごはん」を食べるようにと、その滋養と味わい方を説き明かしてくれています。詩篇の「注ぎ出せ」の合図とともに、苦いものが自分のうちから「ごぼごぼと吐き出されていく」という著者のひと言で、私はこの本が好きになりました。
詩篇には「呪いの詩篇」と呼ばれるような、どろどろとした恨みつらみ、「言い過ぎじゃない?」と突っ込みをいれたくなるような訴えがごぼごぼとあふれています。私の呟きなど可愛いものではないかと思うほどです。だからこそ安心して、私たちも眠れぬ夜に、詩篇作者の呻きに乗せてごぼごぼと本音を白状することができるのです。
著者は、その告白が祈りとなり、神さまが私たちのからだをみことばで作り替えてくださることを信頼して、私たちを食卓に招き入れます。こんなにも豊かな詩篇をショーウィンドウの外から眺めているだけで、味わった気になっていてはもったいないと、蝋細工のようなごはんをするすると陳列棚から取り出してきて、これは飾り物ではなく食べるごはんなのですよと、にっこり微笑んでみせるのです。
その手にかかると、冷え切って見えたごはんが温かな湯気で覆われているではありませんか。さらに、一流の女将か舌の肥えたソムリエのように、素材のよさ、歯ごたえ、繊細な味、いかに私たちに必要な栄養であるかを丁寧に語ってくれるのです。
そして、著者が幼少期から親しんだ児童書の世界も、からだの基礎を造る滋養にしてくださり、著者がかつて経験した犯罪被害者としての苦々しい過去さえもスパイスや隠し味に変えてくださる神さまが、最高の料理人として日々の食卓を備えてくださいます。
本書を通して、「こころのよるごはん」愛好家がきっとふえていく─そんな予感に心が躍ります。