特集 いま、教会にとって必要なもの 無心になる時間─心と体を癒やすぬり絵の世界

イラストレーター、マンガ家、デザイナー、臨床美術士 のだますみ

いつぶりだろう。ぬり絵をするなんて。幼い頃は、女の子のぬり絵を楽しんでいた。ところが、この『ぬり絵で楽しむ 巨匠が描いた聖書』は錚々たる画家たちの作品が並んでいる。この名画たちを身近なぬり絵で味わえるというのだ。
どれから始めようかとワクワクしながらページをめくる。まずはレンブラントの「イサクの犠牲」。レンブラントそっくりに描けたら素晴らしいかもしれないが、私はちょっと違う描き方をしてみた。心に思い浮かぶ色を塗っていく。アブラハムはイスラエル人だったのだから髪はこんな色かなと、決めつけずに好きな色を塗るのだ。天使の羽の色は? 私は紺碧に輝くオオルリの翼のようにした。
塗り重ねていくうち、いろんな想いが湧き上がってくる。息子を犠牲にすることなんてできない……いや、された方がいるのだ。ひとり子を私たちのために与えてくださったのだ。神さまがアブラハムを止めた瞬間、彼の目には何が映っただろうか。そのイメージも色にしてみよう……。いつしか色鉛筆が紙の上をすべる「シュルシュル」という音しか聴こえなくなっていた。無心に鉛筆を動かすことで、時間を忘れていたようだ。
無心になる瞬間、私たちは負っている悩みや不安から自由になる。その自由になった心に、きっと聖書の物語が光を灯してくれるだろう。ぜひ、完成を急がず色を塗る創作の過程を味わっていただきたい。神さまや自分の心との対話を楽しみながら。