「がん哲学」で心に処方箋
―教会にがん哲学外来・カフェを! 第5回 牧師と医師

樋野興夫
順天堂大学医学部
病理・腫瘍学 教授

三月二十六日に、ロンドン大学でイギリス初の「がん哲学外来・カフェ」が行われる予定となりました。日本でも全国各地に三十以上の拠点ができていますが、海外からも注目され始めています。やはり、がんや死について話せる場が、世代や国を越えて必要とされているのでしょう。
現在、がん哲学外来・カフェは病院や学校、薬局などさまざまな場所で行われていますが、もっと教会にも広まってほしいと願っています。すでに二、三の教会が「がん哲学外来・カフェ」を始めているのですが、これから立ち上げを考えている教会もいくつかあります。

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T牧師と出会ったのは、二〇一二年に長崎県の特別養護老人ホームで講演を行ったときです。翌年、東京都板橋区の教会に赴任したT牧師は、がんで闘病している教会員のYさんに、「〈がん哲学外来〉メディカル・カフェ」を紹介したそうです。奥様と一緒に訪れたYさんは、治療上における痛みを分かち合ってくれました。Yさんは一度しか参加できず、二回目は奥様だけの参加でしたが、帰宅してから「樋野先生がこのような話をしていたよ」と夫婦で話すことができたと聞きました。
T牧師は、「長崎で樋野先生と出会っていなければ、がん哲学を知ることはなかったと思います。Yさんは、生きることに強い思いをもっていました。ですが一人ひとりに時がありますから、生きる希望とともに、天の御国にいく備えもしなければならなかったでしょう。Yさんは、がん哲学外来で語られることばによって、その両方の視点を受け止めることができるようになったようです」とおっしゃっていました。クリスチャンは天国に行けるから何があっても大丈夫だと考える人もいますが、がんはクリスチャンもノンクリスチャンも差別しません。クリスチャンも「がん」になります。個人面談では、クリスチャンとノンクリスチャンの悩みにそれほどの違いはありません。
私はクリスチャンだからではなく、人として、その痛みに向き合いたい、「人間」の悩みとして話を聞きたいと思っています。信仰があっても、痛みや苦しみに直面します。人間として同じ悩みなのです。それは一人ひとりが向き合うべきことなのです。そして、苦しみや悩みを分かち合い、互いにことばにする関係を築くことを、がん患者さんだけでなく、ご家族も必要としているのです。昨年十二月二十四日の朝、Yさんは天に召されました。その前の二十一日土曜日には、気分もすぐれていて、家族とともにクリスマス礼拝をし、起きて一緒に食事をすることもできたそうです。Yさんが召されて、翌二十五日の祈祷会に前夜式がもたれたのですが、前夜式には珍しく、クリスマスの賛美があふれる時となりました。以前、T牧師がYさんに「今、何をいちばん望んでいますか」と尋ねると、「教会で最後まで奉仕をしたい」との答えだったそうですが、聖歌隊メンバーだったYさんらしく、賛美の時となったことに家族もなぐさめられたそうです。
また、Yさんが「教会でがん哲学外来・カフェをやりたい」と言っていたことから、その願いを果たすために、イースター後の納骨式を終えてから、「がん哲学外来・カフェ」を始めるビジョンを教会員と話し合う準備をしています。まずは「がん哲学」の講演会開催を検討しており、私も「必ず行くからね」と伝えています。闘病されていたYさんと奥様、そしてT牧師との出会いによって、まさに今、教会でカフェが始まろうとしているのです。

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牧会において、病や死とどう向き合い、どう伝えていくかは大きな問題です。「お茶の水メディカル・カフェ」を紹介するのもよいと思います。教会でカフェを開くには、まずは講演会を行い、教会内外の人々に「がん哲学外来」を知ってもらうことからスタートするのがよいでしょう。
T牧師は、「牧師としては、その方が病から解放されてよくなることを祈り、また、いつどのように召されるかはわかりませんので、天国への希望と死への備えも語らなければなりません。普通は牧師が病院でスピリチュアル・ケアをするのでしょうが、信仰の世界を理解した医師が牧会に関わってくださることは、大きな励ましです。信仰の深い希望についてストレートに語っていただけることは、牧師とのよき連携となります」とおっしゃっていましたが、これからの時代は、牧師との協力がよりいっそう求められていくことでしょう。

<がん哲学外来>メディカル・カフェ
第23回 4月5日(土)13:00~
会場 お茶の水クリスチャン・センター
   参加費無料・要申込み
申込み方法: http://ochanomizu.cc
Fax.03-3296-1010(日時、人数、名前)

◆ 樋野先生への講演依頼はこちらへ

Email : publish@wlpm.or.jp