こころに写るもの 2 スイセン
岩渕まこと
スイセンは心惹かれる花のひとつです。ポップな形と黄色がみごとにマッチングしているなと感心します。また長い茎の上に咲くのもなんだか粋じゃありませんか。
私は、スイセンを見ていると子供の頃の記憶が揺すぶられるような気持ちになります。普段は意識していない記憶の奥に、ぽっかりと小窓が開くような気持ちになるのです。きっとスイセンにまつわる思い出があるに違いない、とわずかな記憶をたどってみると、幼い頃に育った家の庭が見えてきました。
その家は比較的敷地の大きな家が並ぶ、静かな住宅街にありました。私は物心つく前に父親を亡くしているので、母とふたり、父の実家であるこの家に世話になっていました。父の兄にあたる伯父さんが、父親代わりに私を心から可愛がってくれました。母は昼間働きにでているので、小学校から帰ってきた私はひとりで過ごすことが多かったのです。季節になるとその庭にスイセンが沢山咲きました。この花は私の寂しさを癒してくれていたに違いありません。今でもスイセンを見ると感じる、あの妙な感覚は、この時に生まれた、スイセンとわたしの関係からくるものなのでしょう。
毎年同じ姿で咲く花って、本当に凄いですね。
私はといえば、コンサートごとにあーでもない、こーでもないと、ちまちまうろうろしています。
気がつけば、新しいもの、刺激的なもの、誰にも真似ができないもの、なんていう“誰か”を追いかけていたりして、疲れきってしまうことがあります。そんな時、キラキラした目でスイセンを見ていたあの頃の自分が、私を手招きしているようです。