こころに写るもの 4
岩渕まこと
私の中にある季節感は、故郷仙台で過ごした季節感が土台になっていると感じることがあります。仙台の四季は鮮やかでした。特に冬から春にかけてはドラマチックです。
私は冬が嫌いではありません。家族や友人仲間が「さむいさむい」と言いながら肩を寄せ合うのは、良い時間だなと思っています。誰でも顔と顔を向き合わせて丸くなります。意識はしませんが、「あんたがいて良かった」と言っているように、白い息を吐きます。
寒さをこらえながら春を待つ経験は、私の個性にも少なからず影響を与えていることでしょう。私は誰かを待つことが嫌いではありません。
さて仙台の春はどんなふうにやってくるかというと、ある日突然「春だ」とやってきます。仙台在住の作家、伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』の冒頭の、「春が二階から落ちてきた」ということばは、そんな意味ではありませんが、まるでそのように私の「春」はやってきました。
3月に入った仙台は、表通りでは路肩の雪が大分溶けて、歩きにくい状態になっています。市営バスが泥を跳ね上げないように注意しながら通り過ぎてゆきます。ふと私は風の匂いが変わっていることに気がつきます。真冬の氷の結晶のような匂いから、ちょっと甘い花の香りが混じっているような、幸せな匂いへの変化です。
空はどうでしょう。どんよりしていた雲を押し出すように、青空が張り出してゆきます。光が領土を広げるように、街全体が明るくなってゆきます。私は心の中で「春だ」とつぶやいています。
こんな日は1年の内に1日しかありません。この日は北国に住む人間をなごませるご馳走です。