こころに写るもの 8 短焦点レンズ

こころに写るもの5
岩渕まこと

 私がカメラに初めて触れたのは小学生の頃でした。写真好きの叔父さんにパールというカメラを首に下げてもらい、一緒に散歩をしていたようです。しかしその後はすっかりカメラとは縁遠くなってしまい、10年位前にデジカメを手にするまでは写真を撮ることはありませんでした。
数年前に友人のカメラマンから「岩渕さんは古い機械式のカメラが似合いますよ」と言われたことをきっかけにして、カメラ屋さん通いが始まったのです。その頃興味を持ったのがレンジファインダーと呼ばれるタイプのカメラで、その代表はライカです。
このタイプは一眼レフよりも前の方式のカメラなので、ズームレンズというものがありません。全て単焦点レンズと言われる、手元でズームができないレンズです。被写体を大きく写したければ足を使って近づく。小さく写したければこれまた足を使って離れるという具合です。ある意味不便なレンズですが、写真を学ぶ為にはこのレンズを使うのが良いようです。
今月号の写真は単焦点レンズで写しています。最近の写真はカメラが撮ってくれる感覚が強いですが、足を使って撮っているとカメラと人間の共同作業という感じがします。若者たちの間で単焦点レンズやフィルムカメラが密かなブームだそうです。人間を楽にする為に開発されてきた新しい技術に追いまくられているように感じる昨今、あえて不便な事、無骨な物、無駄な時間を求める空気があるように思います。西から東へ駆け回れる事もありがたいですが、時には電話もパソコンも喧騒もない所へ下がって、静まる事が大切だと感じるようになった私です。