これって何が論点?! 第19回 TPPってどんなもの?

星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。

TPPはTrans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement(環太平洋戦略的経済連携協定)を指し、環太平洋地域間の経済の多面的な自由化を目指した協定です。二〇〇六年に最初にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの四国間で始まり、二〇一〇年からアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシアの五か国が参加交渉に加わり、カナダ、コロンビアが続いています。
日本では二〇一〇年十月一日、菅直人首相(民主党政権)が臨時国会の所信表明で初めてTPP交渉への参加を検討すると言い出しました。二〇一三年には、安倍首相(自民党政権)がオバマ米大統領との会談の後、それまで「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、TPP交渉参加に反対」としていた公約を撤回し、交渉参加をして現在に至ります。

Q TPPってどんな内容なの?

菅首相はTPPで「国を開く」と語りましたが、日本が貿易自由化をしていなかったわけではありません。百五十か国が加盟し自由貿易の推進を目指す「世界貿易機関(WTO)」に設立当初から加わり、二国間や複数国間で関税を撤廃する「自由貿易協定(FTA)」や「経済連携協定(EPA)」も十四か国と締結、すでに八か国と交渉中です。
さて、TPPがそれらと根本的に違うのは、FTA・EPAは国対国の貿易協定ですが、TPPは企業が加盟国間での自由な経済活動を行う仕組みを作るためのものであるということです。また、貿易協定は関税撤廃に関して、互いの国情に合わせて譲れない分野を例外とすることができますが、TPPは例外を一切認めません。ラチェット条項というものを設けており、国が自国の産業を守るため外資を規制することもできない仕組みにしているのです。
しかもTPPの適用範囲は、貿易に関する関税撤廃にとどまらず、あらゆる経済活動に及ぶのです。TPPメインアグリーメントには第10章「知的財産」、第11章「政府調達」、17章「行政および制度条項」の項目があります。「政府調達」とは公共事業をはじめとする政府による物品やサービスの購入を指し、規定額以上の案件は国際競争入札の対象になります。しかも「政府」とは市町村レベルにまで及びます。
通常、企業はその国の法律や規制に従う義務があります。しかしTPPに加盟すれば、国の法律や規制よりTPPのルールが優先になります。このようにTPPは、関税自由化だけを見ていたのでは、事の本質を見誤ります。多国籍企業が優位に経済活動できるルールに塗り変えられる可能性があるという、国の制度の根幹にかかわる問題なのです。

Q TPPに加盟したら何が起こるの?

貿易面だけでも、日本産業は壊滅的な被害を受ける可能性があります。農業に関しても、世界各地の低価格商品が押し寄せると、立ち行かなくなるでしょう。二〇一三年に北海道庁はTPP交渉十一か国を対象に関税撤廃した場合、日本全体で農林水産物の生産額が3兆円減少との試算を出しています。これは二〇〇九年のカロリーベースでの食料自給率四〇%が、二七%にまで落ちるというものです。
輸出企業にとっては有利と言われていますが、今TPPに加盟・交渉している国はアメリカを除いて輸出に依存している国ばかりです。しかも大きな内需を持っている国はアメリカと日本だけ。そのアメリカも輸入拡大の路線から、国内の雇用を増やすために国内で製造して海外に売る、輸出増に大きく舵を切ろうとしています。アメリカ企業も含め、加盟・交渉国全体が日本市場を狙っているのです。
事は貿易の問題だけではありません。加盟国には例外なくTPPのルールに従わなければならず、日本の雇用制度、医療保険制度、年金制度等も変えられる可能性があります。
最も問題視されているのが、TPPに付随する形のISDS(Investor State Dispute Settlement)条項です。外国の投資家が現地政府を協定違反で訴えることのできる条項で、外国企業が現地国の政府を相手に損害賠償訴訟を起こし、現地の法律や行政手続きには縛られない海外の仲裁法廷に持ち込むことができるものです。これは国の主権が制限される事態とも言えます。もちろん政府が支払う賠償は、その国の納税者の負担です。このようにTPPは、表向きは貿易協定のように見えながら、その内実は巨大企業による世界の資産占有を進めるための道具とも言えるのです。

Q なぜ、そんなものに加盟しようとするの?

日本政府やアメリカ政府にとっても国の権限が制限される事態に陥るのに、漠然とした根拠のまま政府・官僚主導で進められています。TPP加盟で一番得をするのは明らかに巨大多国籍企業です。そして政治を動かしているものは、莫大な政治献金をする財界です。これらを背景に実に重大なことが進められようとしているのです。
韓国や中国は自国に不利と判断し、参加を見送りました。市場を狙われている日本は、すでに抜けられない状況になりつつあります。政府は国民の雇用と生活権を守るという視点で、TPP参加を見直す勇気を持つべきだと思います。

推薦図書
日本情報分析局のサイトにTPPメインアグリーメント(私訳)があります。
http://nihon-jyoho-bunseki.seesaa.net/article/187356552.html
サルでもわかるTPP http://project99.jp/?page_id=75 廣宮孝信著『TPPが日本を壊す』
(扶桑社新書 2011年)、 中野剛志著『TPP亡国論』(集英社新書 2011年)