さわり読み 話題の新刊『ナザレのイエスは神の子か?』 ちょっとさわり読み
インタビュー1 哲学博士 クレイグ・L・ブロンバーグ
コーヒーを片手にした博士が、ゆったりとした椅子に座った。コロラドの寒さを吹き飛ばそうと、私もコーヒーを口にした。博士はすぐに本題に入るのが好きなタイプだと踏んだ私は、インタビューの初めから問題の核心にいきなり切り込むことにした。「福音書というのは、その題名に不遜にも自分の名前をつけるような人たちの書いたものですよ。知性的で批判的な人物が信じるに値する内容なんでしょうか」挑戦的な声色で、私は質問した。
博士は机の端にコーヒーカップを置き、私のことを正面から見つめ、「信じるに値する内容です、というのがお答えです」と自信を持って答えた。
椅子に座りなおした博士が話しはじめる。「正確に言いますと、四福音書の著者はあくまで匿名でして、この事実を認識することが重要です。しかし、取税人で十二使徒の一人であり、またラビ(ユダヤ教の師)としても知られているマタイが新約聖書における第一福音書の著者であること、ペテロと行動を共にしたヨハネ・マルコが『マルコの福音書』と呼ばれる福音書の著者であること、そしてパウロが『愛する医者』と呼んだルカが、ルカの福音書と使徒の働きの著者であることが、初代教会の統一見解となっています」
「彼らが福音書の著者であるというのは、どのくらいしっかりとした統一見解だったのでしょうかね」
「彼らのほかに、この三つの福音書の著者と思われる人物は誰もいないのです。だから議論の余地はまったくなかったでしょうね」博士が答えた。
「それにしてもですよ」私はこの問題をさらに掘り下げたかった。「私が疑い深すぎるのかもしれませんが、本当は、違う人物の手によって書かれたにもかかわらず、この三人が福音書の著者であるという嘘をつく動機を持った人がいたとは考えられませんか」
首を振りながら、「ないでしょうね。いいですか。彼らはとても『らしくない』キャラクターなのですよ」と言い、博士はにっこりと笑って続けた。……