さわり読み 話題の新刊『枯れ木にいのちの水流れて』 ちょっとさわり読み
オム・キドクは神父の祈りが進んでいくごとに、「主よ、哀れんでください……」と繰り返すのだった。
詩篇一二九篇の「ミサ典礼書」を開いて、オム・キドクと神父の交読が終わると、神父は流れる涙をハンカチで拭きながら最後の祈りを唱えた。
「慈しみ深く心広き天主よ……。今日この世を離れることになった信仰の友のために祈りますので、その魂を敵の手に渡すことなく、主がお受けくださいますように。キリストの御名によって祈ります」
執行官と傍聴人たちの目からも途切れることなく涙が流れ、処刑場というよりは荘厳で至福の礼拝場と錯覚するほどだった。
すべてが得心の行くように終わったので幸せそうな、平安で穏やかなオム・キドクの顔に白い袋がかぶせられた。そして、手錠をした手を縛り、肘を脇腹に固定するように縛り付けた。
次に、足首を縛って歩けなくした後、刑務官たちに支えられて絞首台に引かれていくオム・キドクの口からは静かな祈りが繰り返されていた。
「主よ、わが罪をお赦しください……」
「主よ、わが罪をお赦しください……」
彼の祈りを聞きながら、私は心が引き裂かれる痛みを感じた。燦然と輝く勝利者であるオム・キドクの前では、あまりにも惨めな自分を発見したからだ。牧師である私は、あんなにも真実で敬虔な祈りをささげることができるだろうか。今までの私の祈りがどれほど形式的で吐き気を催すものであったかをただただ恥じるばかりであった。
涙を流して嘆き悲しむはずの死刑囚の前で、私はこのように告白せずにはいられなかった。
「主よ! 彼は勝利者、幸福な者です。主が共におられるのだから、彼は祝福された者です。しかし、牧師である私は、主よ、私こそ罪人です。主よ、私はまさしく重罪人です」
一瞬だった。あまりにも静かに、そして堂々と一人の勝利者が逝った。一生を勝利者らしく生きたとしても、この世を旅立つ最後の瞬間に、死に打ち勝った確信がなければ、どうして勝利者と言えようか!
一生を貧しさと悲しさの中で生き、犯罪者になるしかなかった彼だったが、このように堂々と死に打ち勝ち、彼を見る者に、神が生きておられ、一人の魂のうちにこれほどまでにはっきりと栄光を現して見せてくださる事実を、すべての人に証明した。だから私は叫びたかった。
偉大なり!死に打ち勝たせたもう主の愛よ。祝福あれ!その愛にすがる魂よ……