さわり読み 話題の書籍
『闇に輝くともしびを継いで』
激動の時代を生き抜いてかつての敵国、日本へ 愛と福音を伝えた一宣教師の感動の手記 | ||
感動の声続々! 今、読者の感動の輪が広がっています。 | ||
闇に輝くともしびを継いで | ||
宣教師となった元日本軍捕虜の76年 | ||
スティーブン・メティカフ著 四六判 定価1,260円 |
大戦下の中国。日本軍の捕虜となった英国人少年は、収容所で出会った人物から、敵を赦し、敵のために祈ることを教えられる。その人物とは、映画「炎のランナー」の主人公として描かれたオリンピックの短距離ランナー、エリック・リデルだった。やがて少年は、かつての敵国、日本へ宣教師となって来日する。著者が自らその半生を振り返る。 |
話題の書籍 さわり読み |
収容所という特殊な環境の中で、こんなにも大切なことを教えてくれたリデルは、私にとってかけがえのない教師だったが、彼の身には少しずつ恐ろしい変化が生じ始めていた。以前はできたいろいろなことが、だんだんできなくなってきていた。脳腫瘍の兆候だった。
あるとき彼は自分のランニングシューズを持って、私に会いに来てくれた。彼独特のはにかんだようなぶっきらぼうな言い方で、「きみもその靴をかなりはきつぶしているようだね。また冬が来ることだし、僕のこの靴なら二、三週間はもつんじゃないかな」と言うと、軽くうなずいて私の手にその靴を押しつけていった。それはぼろぼろだったが、彼にとって非常に意味のある競技会で使った靴だったことを後に知った。あちらこちらにつぎはぎがあったが、それは彼自身が私のためにしてくれたことだった。脳腫瘍の症状に苦しめられながら、どれほどの苦労をしてそのつぎをあててくれたことだろうか。
それから三週間ほどして、エリック・リデルは天国へ帰っていった。四十三歳という若さだった。私と、他にほんの十数人だけが、警備兵に伴われて墓地まで行った。私は彼がくれたランニングシューズをはいて棺をかついだ。殺風景な墓地の穴に彼の棺をおろし、寒さに震えながら収容所に帰る道すがら、私の心には複雑な思いが渦巻いていた。「これが中国にいのちを捧げた男の迎える結末なのか。妻にも子供にも死んだと知らせることさえできないなんて。ゴールドメダリストであり、聖人のような人物だったのに。でもいつかきっと、神さまがエリックに栄誉を与えてくださるにちがいない。僕たちは今、とにかく収容所生活を続けていかなければならないんだ。きっとやるべき仕事が残っているんだ。神さま、もし僕が生きてこの収容所を出られる日が来たら、きっと宣教師になって日本に行きます」